それはどういうことかと申すと、私の接客態度についてのことだ。

女らしくなれないなら、男を磨けばいい。

そんな発想から生まれたのが私特有の接客である。

気になる、というのならば、今からやる私の接客を見ていてもらいたい。

私は2階の窓から1階の居酒屋に向かう客の姿を見つけた。

あれは・・・源氏物語大好きの常連、田村(たむら)さんではないか。ふふん、お得意様がいらっしゃったぞ。

私はクローゼットをあけ、多数あるコスチュームの中から紫色の狩衣(かりぎぬ)を選び、着た。
ワックスで髪を整え、烏帽子(えぼし)をかぶる。扇を持って、妖艶に鏡に向かって笑いかけた。

コスチューム・イン・光源氏、完成!

「弥勒ー?お客さん!」
「はぁーい」

大きく返事をし、階段を駆け下りる。厨房に向かい、おばちゃんに「やってきます!」と言った。

そして、受付の方に出る。向こうには田村さんが今にも戸を開けるところであった。
田村さんが入ってきたのを見計らい、私は、カッコよくそこに立つ。

「待っていたよ。田村の前」

『~の前』とつけるやり方は、昔で言えば妻を意味している。それを分かっていての上だ。

「あっ、えっ、光源氏?」
「その通りだよ、田村の前よ」

フッ、と優しく笑いかけた。

「今日も相変わらず美しいね。そなたはまるで桔梗のようだ」
「そんな・・・」

田村さんが恥ずかしそうに首を振る。

「そなたが来るのを、私は今か今かと待っていたのだよ。ほんの数分の事が、まるで何年も待ったようだ。ささ、こちらにどうぞ」

夕方、夕日の見やすいところへと、今日1人目のお客を招き入れる。