(まさか・・・伝わった?)

―テレパスかよ、こいつ。

桜羽は冷や汗をかきそうになった。しかし、黒田(くろた)は怒ろうともせず、手ぐしで髪をすく。

「戻して欲しいのは、4年前の私の中学校時代、場所は中央中学校で」


冷静なのか早くして欲しいのか、黒田は無駄話もせずにとっとと進めてしまう。変なやつがきやがった、と桜羽はついつい溜め息をつきそうにもなった。


―時世逆流屋―

桜羽が所属する「専門業」だ。時を戻す力、いわゆる「人間タイムマシン」なのだろう。依頼主が頼めば、その時までの時間を遡り、依頼主の過去を変える。

嫌いな人間を、過去の世界に行って消した依頼主も時たまいたものだ。


桜羽は立ち上がり、部屋の隅に移動する。

白い壁に、人間が入るほどの大きさの円を指でなぞった。すると、フワッ、という効果音が似合いそうなテンポで、ブラックホールに似た黒い穴が開く。


「はい、完了」


これは、時世逆流屋が使う異空間、時を越えるための道といっても過言ではないだろう。

桜羽は黒田に、この穴に入るように手招いた。


「早くしろよ」


そう言ってやると、黒田は、フラフラとしたような歩き方で、穴に向かう。