和気藹々先輩と会話を交わした田中さんは、クレジットカードを彼女から受け取り、俺に会釈してホテル内へ。
いってらっしゃいとヒラヒラ手を振る鈴理先輩は完全に田中さんの背が消えたのを確認。その後はこっそりと逃げようとする俺の体を、開かれた扉に押し込んでバッタン。
無情にも扉を閉めやがりましたとさ。
おしまいおしまい。
物語であれば、此処で終わる事ができるんだろうけど…、嗚呼、残念、これは現実だ。
話は終われない、とまらない、逃げられない。
暗い車内でもバッチシ分かる先輩のドドド不機嫌、そしてあくどい笑み。
二人きりになった瞬間、肉食獣は本領を発揮してきた。
「さてと」の掛け声で俺に迫ってくるもんだから、反射的に車内の奥へと避難。
一般の車よりかは広いけれど、やっぱり車内は狭い。
すぐに追い詰められた。
嗚呼、これから修羅場でごぜぇーますよね。状況は把握しなくても理解できます。
「せ、せせせ先輩っ! お、俺の話をですねっ、聞いてもらえますかっ!
う、浮気とかそんなのはしてませんと、まず前置きとして言っておきます!」
テンパってる俺に、「当たり前だ」先輩が唸り声を上げる。
「玲となあにしてたんだ?」
不機嫌丸出しの問い掛けに今度は俺は呻き、ちょっとばかし間を置き、逆に質問。
「あの、つかぬ事をお聞きしますけど…、俺、ちゃんと男に見えます? 御堂先輩から女疑惑を持たれたんっすけど」
「はあ?」間の抜けた声を出す鈴理先輩に、仕方がなく事情を説明。
なんだかワケの分からないことを言われて女疑惑を持たれてしまったのだとボソボソブツブツ。
嫌悪しないイコール、女疑惑を掛けられるのも変な感じだけど、事実だから先輩に包み隠さず伝えておくことにする。
じゃないと後から酷い目に遭いそうだしな。今も遭いそうだけど!



