嗚呼、ま、マジで食われるんじゃ、俺。
畏怖の念に駆られている俺の腕を掴んだ鈴理先輩は、問答無用で大股で歩き出す。
ど、何処に行くんっすかっ…、嫌な予感しかしないっ…、うわぁあああん! 先輩方っ、助けて下さいよっ!
そんなにこやかな笑顔で見送らないで下さいっすっ!
俺がこれからどんな目に遭うか分かってるんでしょー!
あの鈴理先輩っすよっ、鬼畜や俺様やドSに憧れている鈴理先輩が仕置きをしないわけないじゃないっすかぁああ!
ヘルプ、ヘルプー!
俺のSOS信号を誰もが受信してくれるけど、それだけ。
さいならさいなら、お達者でと言わんばかりの笑顔で手を振ってくれる。
み、皆、薄情者っす!
あわあわしている間にも、鈴理先輩は持ち前の腕力で俺を引き摺って乗ってきた高級車の前に立つ。
車内で待っていた運転手の田中さんが出てきて、わざわざ扉を開けてくれた。
それだけでも申し訳ないのに、「少し席を外してくれ」とご命令するもんだから、もっと申し訳なくなった。
べつに席を外さなくてもいいんっすよ田中さ…、あああっ、じゃあホテルのカフェでお茶をしても大丈夫でしょうか? なんて殺生な事を仰らないで下さい!
気遣いは無用っすよっ、俺の身がマジで危ないんっすから!
だけど鈴理先輩は勿論だと頷き、「すまないな」笑みを浮かべて謝罪。
「ゆっくりと休んできてくれ。
そうだ、父のカードをアンタに貸す。これで支払いを済ませてくれ。他に買い物があれば、カードを使ってくれ。アンタにカードを貸しても、悪用はしないと分かっているしな」
「有り難いお気遣いです。じゃあ、お言葉に甘えて。私の娘に土産でも買って来ようかと思います」
「ああ、そうしてこい。ホテル内に有名な洋菓子店があるようだしな」