せめて状況を説明してから帰って欲しかったっすっ!
逃げるなんてずるいっす!
貴方様のせいで俺達、一躍噂の人になっちまったんっすから説明くらいして帰って下さいよ!
ひとりで鈴理先輩に説明しろとかっ、最初からひのき棒でラスボスと戦えと言われてるようなもんっす!
「ま、楽しくなってきたかもねぇ」
失笑を零したのは川島先輩。
彼女は頭の後ろで腕を組み、「これぞ少女漫画の王道展開っしょ」と口端をつり上げた。
他人事だと思ってっ、なあにが少女漫画っすか。
好敵手が出現する二巻辺りの展開とでも言いたいんっすか?
展開もなにも、御堂先輩は俺の性別と確かめようとしただけっすよ。
好意というよりは真実の追究に走っただけといいますか…、暴走したといいますか…、そりゃあ節々に至らん言動があったっすけど。
「とにかくだ。豊福は鈴理に事情を説明しろ。俺等には後日、説明してくれたらいい。今の鈴理の怒りは俺達の手には負えねぇし」
ニンマリのニヤリ。
某俺様はこっちはこっちで別に迎えを寄越してもらうから、そっちはそっちでカタをつけろと死刑宣告。
顔面蒼白をしたのは俺。
え、うそ、ちょ、俺を見捨てるんっすか!
先輩方がいるから、鈴理先輩っ、まだ行動が小さいんっすよ。
二人っきりになっちまったら、それこそ俺のピンチ!
貞操の危機にっ…、あ、宇津木先輩、川島先輩っ、なんでそこで相槌を打ってるんっすか!
嫌ですってっ、二人きりなんてっ、絶対に無理っ、無理っす!
「せ、先輩方!」悲鳴交じりに助けを求めるけど、「そーら」頬を包む彼女の柔らかな手が視線をかち合わせようと無理やり引き寄せてくる。
「あいつらの気遣いだ。甘んじて受け止めような。―…これからはあたしとアンタの時間だ」
アイロニー帯びた笑みを浮かべる彼女が満目一杯に映る。
この表情にドキッ、胸キュンする俺がいたりいなかったり。
嘘です。
そんな俺、まったくもっていないです。
完全に血の気が引いています。
背中や脇やこめかみ等々に恐怖の汗が流れています。