前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―





  
  
俺と御堂先輩の婚約式は中断されたけれど、俺達の関係はかろうじて婚約者のままだ。



かろうじてとはどういう意味か?

簡単、婚約した際に交わした契約書の片割れを御堂先輩が破ってしまった。

二枚でワンセットの片割れが破かれてしまったのだから、完全な婚約者とは言えなくなった。

仮に俺がもう一枚を破ってしまえば、はい婚約者ではなくなりました。俺達は今からオトモダチに戻ります! になるわけだ。


紙切れで運命が決まるなんてつくづく変な感じだよな。

紙に人生を翻弄されている気分。


そんな俺達の曖昧な関係を、いつまでもなあなあにしておくことはできない。

見舞いに来てくれる御堂先輩もそれは分かっている。
 

けれど彼女からその話題を切り出されることはないし、俺から切り出すことも難しい。


悲しみに暮れている彼女の醸し出されるオーラが物語ってくるんだ。

まだその話題に触れないで欲しい、と。


献身的に世話を焼いてくれる御堂先輩の哀しげな顔は見ているだけで心苦しい。

俺が入院している間、その様子ばかり目に入ってしょうがない。

隠れ甘えたのくせにちっとも甘えてこなくなっちゃて……蘭子さんやさと子ちゃんもそのことをすこぶる気にしている。

まるで人を好きになることを恐れてしまっているよう。



―――きっとそうだ。

彼女は恐れてしまっている。

一件で彼女は学んだ。

自分の感情一つで、誰かの人生を変えてしまうのではないか、と。


実親を殺してしまった俺と同じだ。


でももう、俺の心は決まっている。

彼女がどう言おうと、気持ちを変えるつもりはない。
 



「空くん。病室にいなくていいのかい」


ある夜のこと。

イチゴミルクオレばかりじゃ不健康だろうと思い(冷蔵庫がイチゴミルオレ一色……)、トイレついでに休憩室に足を運んだ俺は自販機の前で飲み物を選んでいた。

背後から声を掛けられそこから目を外す。

視線の先にいたのは源二さんと一子さん。それに蘭子さんもいる。


多忙の身の上なのに、俺の見舞いに来てくれたのだろう。

話は聞いている、淳蔵さんと対峙しているんだってな。


あの淳蔵さんと対峙してしまうなんて、源二さんも度胸があるよ。
 

会釈し、緑茶が飲みたくなったのだと微笑む。

笑みを返してくれる源二さんは一子さん、蘭子さんと共に歩んできた。


「少し話をしたいんだ」


神妙な顔で切り出され、俺は何かあるな、と察する。