毛布を取っ払い、べろっとパジャマを捲ってくる鈴理先輩についチョップをかました。
しかし小癪なのことに彼女は紙一重に避けてしまう。
「甘いな空」
シニカルに笑い、今すぐ緊縛プレイをしてみるか? と、ポケットから赤いロープを取り出した。
ガタブルでかぶりを横に振ると、「まあいい」これは玲を負かした時までお預けだと一変して優しい微笑みを作る。
「婚約者に伝えておけ。あんたの嫁候補はあたしが寝取ると! ……まだ婚約を白紙にするなよ。あたしとの勝負がついていないのだから」
グイッと詰め寄るあたし様の、隠れた友情を見出してしまう。
ああ、この人は毒を吐きながらも御堂先輩のことを心配している。
今回、最も傷心を負った彼女を親身に。
好敵手の前に好(よ)き幼馴染なんだ、二人は。
親友とはまた違った二人だけの関係にちょっと羨ましく思った。
うんっと頷く俺に、
「あたしはあんたを迎えに行けただけで満足だ」
無茶したことはばあや達に死ぬほど叱られたがな。
ぺろっと舌を出し、彼女は俺の左頬にキスをする。
ついで、右頬にキスをし、最後に鼻先に唇を落とした。
「いいか。まだ勝負は始まったばかりなのだからな。覚悟しておけよ、所有物」
雰囲気が台無しだ。
「せめて名前で呼んで下さいよ」
ケータイ小説だとNG集に入る台詞なのでは? 彼女に問い掛け、軽く抱擁を交わした。
俺達はあの頃の俺達には決して戻れやしない。
先輩は先輩の、俺は俺の、選びたい道がある。お互いにそれは分かっている。
だからこそ意思を尊重し、応援し、自分達の進むべき道を歩んでいく。俺も先輩も後悔はないよ。
こうして付き合えたことに、つらい別れを味わおうと後悔はない。
今もこうして繋がりを持っている奇跡に感謝したいほどだ。
これから先、俺達の関係はまた変化するかもしれない。
未来なんて誰も予知できない。
だから今は、自分の感情に従って選ぶ道を歩む。
俺の選ぶべき道を。
「先輩、俺は貴方と繋がったことを後悔していませんよ。先輩たちに会えたのは貴方のおかげっす」
「そうか。そう言ってくれるとあたしも嬉しい。あたしもあんたを好きになれて本当に良かったと思っている。むっ、過去形は気に食わんな。現在進行形に訂正しておこう」
まだまだこれからだ、あたしもあんたも。
「とても辛い経験をしたと思うが」
めげるなよ。何かあればあたしはいつでも駆けつける、あんたの騎士として。
ふんわりとあどけない顔で綻ぶ彼女に笑みを返すと、こっそり耳打ちしてきた。それは簡単な質問。
『あんたの好きな女は誰だ?』という、ありきたりな質問。
俺は耳打ちして答えた。
なんて答えたか?
それは俺と先輩だけの秘密だ。
元カレカノだけの、小さな秘め事として記しておこう。



