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「―――~~~ッ、空! どういうことだっ、玲とあのようなやり取りをするとはっ! しかも腰を触らせただぁ? あたしが苛々しながら他の財閥と社交辞令を交わしている間になにをしていたのだっ!
……ふふっ、躾が足りなかったのかもしれんなぁ?」
「あ、いや、だから…、これにはふっかいワケがあってっすねっ」
会場を後にし、逃げるように飛び込んだホテル地下の駐車場にて。
じっりじりと現在進行形で詰問をされている俺は、千行の汗を流しながら後退りあとずさり。
途中肌が剥き出しになっている無機質なコンクリート柱に道を阻まれてしまい、逃げ道を塞がれてしまった。
ひんやりと冷たい障害物を背に受けながら、しっかりと彼氏を追い詰めてくる彼女に俺は誤魔化し笑い。
ちっとも誤魔化されていない彼女は素敵に無敵な笑顔を浮かべてくるけど、目が一抹も笑っていない。
禍々しくもどす黒いオーラを放ちつつ、俺を瞳の中に閉じ込めている。
これは怒っているよ、激怒している。
余所で「ありゃぜってぇ噂になったぜ」大雅先輩、「どうしましょう」宇津木先輩、「やっちまったねぇ」川島先輩が各々吐息をついていた。
曰く、財閥界の噂ってのはねちっこいらしい。
だからできる限り、噂は作りたくなかったのに、まさか男嫌いの御堂財閥長女が男を襲った上に夜のお誘いをしただなんてとんでもないことだとか。
噂は噂を呼び、きっと誇大な噂が財閥界を巡りめぐるに違いない。
面倒なことになったと、財閥界に身を置いている大雅先輩が宇津木先輩とアイコンタクトを取って肩を落としている。
いやいやいや俺だってとんでもないことをされちまったと思ってるっすよ!
俺っ、傍から見てもただの被害者っすからね!
公の場で脱げとか(何処まで脱がせるつもりだったんだろう)、お前女だろうとか(男にしか見えんだろーよ)、セクハラ発言とか(腰触りたいはまさしくそれだろ!)、ワケの分からんことばっか言われたんっすよ!
しかも加害者の御堂先輩は、会場を出るや否や自分のしでかした事の大きさに気付いて、「最悪だ!」とか奇声を上げながらひとりで帰っちまうし。