「そういえば、豊福くんと玲ちゃん。どうなるんだろうね。婚約式中断は誘拐事件で済まされていたけれど」

「まだ本人たちの気持ちに整理がついていないようだと、鈴理さんは言っていましたわ」


「……同情に値するよ、ほんと。ご老人ひとりのせいで若人二人の心はズタズタだ。豊福くんは財閥界から早く立ち去った方がいいと思うけれど、もう、無理だろうな」


何故、と野暮なことは尋ねない。

仮に財閥界から立ち去ったとしても、この世界と繋がってしまったという明確な事実がある。

五財盟主がいる限り、彼は何度もなんども、どこかしらで財閥界と関わっていく機会があるだろう。


なにより財閥の人間とこんなにも関わってしまった。


「彼は知ってしまった。御堂淳蔵の裏の一面を。奴がそれを見逃す優しい男とは思えない」
 
「どうするおつもりで?」

「どうするも何も、彼に残された道は限られているよ。真衣ちゃん。僕は彼を仲間に引き込もうと目論んでいる最中さ」


気の毒そうに笑い、楓さまは落胆したように肩を落とした。

「彼の借金」僕の出番なく解決しそうだね。話題を替える彼に、「そうですね」私は便乗してあげた。


「あ、鈴理ちゃんと大雅の婚約はどうなったの? 勝負の決着は?」

「あら、楓さまは知らなかったのですか? あの勝負の行方は―――」


嗚呼、私もそろそろ貴方を見習って思うだけの人間はやめなければいけない。

もう行動を起こさない人間はもう、やめにしなければ。



財閥界はゆるやかに動き出した。


二階堂楓という一人の男の宣戦布告により、絶対権力の世界は今、水面下で静かな波紋を広げようとしている。