チッ、舌を鳴らす鈴理先輩は反対側の扉に目を向けた。
小刻みに揺れる車内に恐怖することなく、彼女は俺越しに扉のロックを解除。
持ち前の脚力で二、三度、扉を蹴った。
熱せられている車はボディが歪み、扉が開けにくくなっている。
それでも彼女は諦めず、扉を蹴り飛ばした。
ぶわっと入り込んでくる外気は冷たく、車内は蒸されるほど熱く、胴に回される腕は優しい。
完全に傾斜が垂直になった頃合を見計らい、鈴理先輩が俺を抱えたまま夜の外界に飛び出した。
その際、彼女は俺に言ってくれる。
「空、落ちるときは一緒だ」
放られた俺と鈴理先輩の体。
彼女越しに見える満目一杯の夜空が足元で輝き、無愛想な夜の雲が俺達の様子を冷然と見守っていた。
重力に遵って落ちていく感覚は高所恐怖症にとって多大な恐怖でしかないのに、抱き締めてくれる彼女の腕と、体温が不思議とそれを払拭してくれる。
待ち受けているであろう地上が俺の視界に飛び込んでから恐怖しないのかもしれない。
最後に見たのは切り立ったカーブと、夜空の絨毯と、それから風に靡くいとしい彼女の綺麗な髪―――…水飛沫が上がった。



