燃え盛る車内はまるでオーブントースターのよう。
俺達人間はむせ返るほどの熱気と火の粉に、呼吸すら儘ならず身悶えていた。
轟々唸る火、徐々に傾斜の角度が上がり、俺達の体は前部席に傾いていく。
「さと子ちゃんっ。俺の掛け声に合わせてもう一度、足、引っ張ってくれないかな。まじやばい」
「ゲホッ……、はいっ、どこまでもお供しますから!」
やめてってそういうの、普通に友達でいようよ。
主従関係だなんて俺達には不似合いだよ。
心中でツッコミつつ、『せーの』の掛け声と共に俺は左足に力を入れ、さと子ちゃんは運転席のシートに足を掛けて、足を引っこ抜こうと試みる。
ああくそっ、いっちょん抜けないよ父さん母さん!
いっそのことこの左足を切り落としてしまおうか!
迷惑ばっかりかけてらにっ!
……抜けろっ。早く、俺の足、抜けやがれ。
俺もさと子ちゃんもまだ死ねないんだ。
ここで俺達が死んでしまったら、それこそ悲しむ人たちが出てくる。
俺は遺された人間の悲しみを痛いほど知っている。
人の死によって一生消えない罪悪を抱くこともあると俺は知っている。
生きなきゃ。
生きていれば何度だってやり直せる。
「くそっ、抜け、ろ」
生きていないとできないこと、沢山あるだろ。
「抜け、て。お願い」
つらくたって、苦しくたって、生きているからこそ手に入らないものがある。
だから、生きなきゃ。
「この野郎っ、抜けやがれ―――!」
刹那、さと子ちゃんの体が俺から強引に引き剥がされた。
腕を掴まれた彼女は車の向こう、揺らぐ炎の先に消える。
「空さま!」
手を伸ばす彼女に瞠目。
さと子ちゃんの代わりに飛び込んできた女性に驚愕。かち合う瞳に絶句。
「す、ずり先輩」
揺らめく炎の中、俺は確かに想い人の姿を捉えることに成功する。
パーティードレスを着ていたくせに、彼女の格好は制服姿そのものだった。いつ着替えたのだろう?
また車内の傾斜角度が上がった。
ずるずるっと体が滑る。
説明する間もなく、彼女は俺の置かれた状況を察し、荒呼吸のまま左足に手を掛けた。
「遅くなった」
本当にすまない、荒呼吸のまま彼女は俺に詫び、勢い良く足を引く。
アイタタッ、途中で足首が引っ掛かり、痛みが走った。
けれど彼女は人命を優先し、俺の訴えを退いて足を引き抜こうとする。
「せん、ぱい。まだ抜けそうに」
「あたしを誰だと思っている? いつも空を姫様抱っこしていたんだっ。その力を持ってすれば絶対に抜ける」
座席のくせにあたしに盾突くなんてっ、……いい度胸だ。
舌を鳴らし、鈴理先輩が渾身の力を込めて人の足を引いた。
すぽっ、抜けた音を言葉に表すとこんな感じだろう。
ようやく抜けた左足に安堵する時間もなく、炎上する車が川に向かって滑っていくのを肌で体感する。
開かれていた扉は滑る拍子にガガガッ、ギギギッ、ガードレールと擦れ、ぱたんと閉じてしまう。



