車のスピードがグングン上がっていくのを肌で感じ、俺達は顔を見合わせる。
濱も異変に気付いたのだろう。
運転手にどうしたのだと尋ね、速度メーターを一瞥。
顔を顰め、ここは一般道路だ。
逃走しているとはいえ、もう少しスピードを落とせ、サツに目を付けられたら面倒だと苦言する。
けれど車のスピードは減速しない。
寧ろ、赤信号に変わったというのにも関わらず、車を追い越して道路を突っ切った。
歩道に乗り上げそうになり、急カーブを試みる運転手。
その表情は青褪めていた。
濱の喝破に、「ブレーキが」利かなくなったんだ。なんぞとほざきやがった。
え、つまりスピードは出るけど出たまんま止まれないって状況? うそーん……マジで?!
そんな馬鹿なと濱が横から足を出す。
向こうの制止を聞きもせず、ブレーキを何度も踏んでいるけれど結果は同じ。
車窓から見える夜の景色は速度を上げ、流れ消えていく。
デッドドライブの始まりである。
街中を暴走する車はエンジン音を轟かせながら、どけどけ、どかねぇか! と言わんばかりに車道を走る他の車を押しのけて直進していく。
障害にぶつからないよう四苦八苦しているお仲間さんだけど、その顔色には血の気がない。
まずい状況に陥っているのだと一目で分かる。
いつ衝突事故を起こしてもおかしくない。
「そ。空さま」
縋ってくるさと子ちゃんに、
「座席の下に隠れて」
万が一のことを考えておこうと顔を顰め、席を移動した。
「重いかもしれないけど、勘弁してね」
頭を低くさせている彼女の上に、強く覆いかぶさる。
右に左に大きく揺れる車内は尋常じゃない。
まるでジェットコースターに乗っているような気分。
高所恐怖症だから、本物には乗ったことがないんだけどさ。
急ブレーキをかける音が聞こえてくる。
多数のクラクションに、何かがぶつかる音。
暴走車による被害が聴覚で確かめられた。
前部席で濱と仲間の言い合いが聞こえるけれど、一々内容は確かめられない。恐怖心ばかりが募る。
嗚呼、どうか、どうかっ……最悪の事態だけには。
前部席から喚き声が聞こえた。
―――くる。
大きな波がくる。
本能が警鐘を鳴らし、下にいるさと子ちゃんをきつく抱き締めた。
眩い閃光が走ったと思ったら、クラクションが絶え間なく鳴り、鼓膜が破れるような衝突音。
ぶつかる頭部に硝子の飛び散る音。
すべてが一つの音と化し俺達に襲い掛かった。
喪心。
それが数秒なのか、数分なのかは分からない。
ただ、気付けばさと子ちゃんが俺の下でもがいていた。車内灯はついていない。
なのにはっきりとさと子ちゃんの顔が確認できるのは何故だろう?
それに妙に空気が熱い。
なんで、どうして、ああ、判断力が低下しているのは頭部をシートで強打したせいだ。
ぐわんぐわん脳みそが揺れている。
自力で下から這い出したさと子ちゃんが周囲を見渡す。
次いで、焦ったように俺の体を揺すり、上体を起こすよう懇願してきた。



