「これ以上、御堂先輩を侮辱するならマジ相手になんぞ。俺は薄汚い金で交渉に応じ、家族を売り飛ばしたお前の方がよっぽど憎い!」
利き手で勢いよく銃口を払った。
瞠目する濱の手を捻り、その物騒な凶器を手放させる。
見事な連携プレイでさと子ちゃんが銃を奪い形勢逆転。
かと思いきや、彼女は銃を拾うや違和感を覚えたのか軽くそれを振る。
「も、もしかして」
銃のボディを触り、おもむろにひっくり返す。
中から小さな弾が出てきた。
オレンジ色の弾は見覚えがある。
誰しもが一度は触ったことがあるであろうBB弾。
遊戯銃だと顔を引き攣らせるさと子ちゃんに俺も面食らった。
お、おもちゃに脅されていたってか?!
「ははっ! 当たり前だろ。本物を持っていたら銃刀法違反で捕まっちまう」
どな、こういうものは護身用として持てるんだよ。
濱は俺の隙を見て、利き腕に折りたたみナイフを突き刺した。
「空さま!」
さと子ちゃんの悲鳴と俺の悲鳴がハモッた。
堪らずに身を引く。
刺された箇所を押さえると、指の間から鮮血が滴った。
深く刺されたようで、相手の持つナイフの刃は全面的に濡れていた。
ぺろっと人の体液を舐め、シニカルに笑う濱はおとなしくしていた方が身のためだと忠告してくる。
でなければ可愛いお嬢さんがどうなるか。
濁った瞳を宿す目玉がきょろっとさと子ちゃんを捉えた。
青褪めている彼女を車窓に追いやり、「ふざけるな」金づるは俺だけだろ。痛みに声音を震わせながらも、相手を睨んで威嚇する。
「そうだ」
だからそこの付録は不要なのだと濱は嫌みったらしく頬を崩す。
それでも付録は活用するつもりなんだろう?
どいつもこいつも人の弱味を握るクソッタレな真似ばっかりしやがってからに。
これを乗り切ったら護身術でも教えてもらおうかな。
俺、誘拐され過ぎ。利用され過ぎだろ。
さすがに学習しようと思ったよ、まじで。
ズキズキ疼く右腕を押さえ、しかたがなしに相手の言うことを聞く。
今はおとなしくしていないと俺は勿論、さと子ちゃんにも危害が及びそう。それだけは阻止しないと。彼女は巻き込まれただけなのだから。
ああ、迂闊だったな。
相手が刃物を持っているなんて。
脅しの代物はBB弾銃だったくせに、刃物は本物とか反則だろマジで。
生唾を飲んで痛みに耐えていると、「だ。大丈夫です」絶対にお嬢様たちが助けてくれますから。背後から怖々とした励ましを頂戴する。
ハンカチで止血した方がいい。
さと子ちゃんが上着のポケットに手を突っ込んだ。
その瞬間、用心深い濱が動くなと喝破してくる。携
帯で一報されると思ったらしく、妙な真似をしたら刺すと脅しにかかった。
ひゅ、喉を鳴らす彼女に「言うとおりにしよう」俺は大丈夫だから、首を捻って弱弱しく微笑んだ。
「ごめんね。巻き込んで。さと子ちゃん、関係ないのに」
「そ、そんなこと言わないで下さい。私が勝手にっ、空さまをお助けしようとして首を突っ込んだだけなのですから」
だけどそうしてでも関わりを持ちたかったのだとさと子ちゃん。
俺に遠まわしな絶交宣言をされても、何を言われても、どうしても見捨てておけなかったのだと彼女は言ってくれる。
あんなにひどいことを言ったのにも関わらず、さと子ちゃんは―――…そこまで思った時だった。



