前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「あたしが苦しい時。挑発しつつも助言とチャンスを与えてくれたな。なら、あたしも毒言と、助言と協力の手の三つを与える。

可能性がまだあるんだ。
じいさんに屈するな。じいさんの手を借りて勝つのではなく、ちゃんとあたしと勝負して元カノを降(くだ)せ。

でなければっ、同じ攻め女としてあたしはあんたを軽蔑する」


早足で歩み寄ってきたあたし様がそっと見上げてきた。強い光を宿した双眸に泣き笑いを零す。


「言いたいことばっかりっ、言ってくれるね。可愛くない。素直に慰めればいいものを」


小さな体躯をしている好敵手と抱擁を交わし、その場に崩れる。皮肉を零しているのに声はすっかり涙声だ。


「何を言う。人が打ちひしがれている時に、塩どころか唐辛子をおくってきたのはあんたじゃないか。目の前で空とイチャイチャ……、腹立たしいったらありゃしない」

「僕も君に多々文句がある。傍にいるのは僕なのに、根底で想われているのはいつも鈴理なんだ。ふざけるなっ、どれだけ心を独占したいんだ。君は」
 


「あたしの勝ちだな」「全力否定するからな」「だからと言って負けてもいない」「負け惜しみ」「まだ数時間ある」「それで勝てるとでも?」「可能性があるなら何度でも抗うさ」「往生際が悪いと言うんだよ」


互いにむき出しの肩に額を置き、抱擁を交わし、グズグズと今の感情を吐き出す。

ただ好きでいたかっただけなのに、どうして大人の都合で振り回される恋愛をしているのか。

こんなことなら財閥の令嬢になど生まれてこなければ良かった。

普通の女の子になりたい。
身分も借金も家柄も考える必要のない、庶民になってしまいたい。
 

玲の吐露に、鈴理は一つ一つ相槌を打ってくれた。

彼女もまた同じ気持ちを抱いている女子、自分の気持ちは痛いほど分かってくれるのだろう。


つらいと弱音を吐き、仕組まれた婚約の真相に嘆き、本当はどうすれば良いのか分からなかった。

途方に暮れていたと本音を漏らす。

やっぱり鈴理は相槌を打ってくれた。

好敵手でありながらも、彼女とは一番近い存在だ。

気持ちを理解してくれるのだろう。


「で、どうする?」


今しばらく抱擁を交わしていると、鈴理がこれからどうする? と意地の悪いことを聞いてきた。分かっているくせに、嫌な女である。


つい玲は負けん気を出した。

「今夜、豊福と寝てやる」と。


途端に鈴理の眉がつりあがる。

 
「こんな散らかった部屋でヤるというのか? スキモノだな。あんたも」

「君には負けるね。それに、この部屋でなくてもセックスはできる。ホテルなのだから部屋は沢山あるさ」

「……ふっ、玲。やはりあんたは此処で仕留めておく必要性がありそうだ。なに、心配するな。空のことは任せておけ。美味しく頂いてやるから」

「……へえ鈴理。もしかして僕を伸そうとしているのかい? チービな君が大きい僕を伸せるとでも? いいよ。豊福は僕が食べてあげておくから」

 
「……、……、泣かすぞ?」

「……、……、それは僕の台詞だよ」
 
 
一変して険悪ムードが漂う。

抱擁していた腕が解かれ、

「あたしに向かって生意気だ!」

「傲慢女よりかはマシだ!」

互いに頬を抓って上下運動。
再び恋する乙女……、じゃない、王子と騎士のバトルゴングが鳴った。
 

見かねたのは大雅である。

二人の間に割って入り、


「なんでまた喧嘩なんだよ」


女の友情ってわっかんねぇな。いやお前らがわっかんねぇ。

溜息をつき、取り敢えず攻め女二人の頭をはたく。

暴力だと口を揃えてくる女共に、「男女平等でぇす」特にお前等は≪女≫と見ていないのでご安心を。俺様は大袈裟に両手を挙げた。