「この財閥界に空を引き込んだ契機はあたしにある。そう、このあたしだ。
ははっ、あんたはあたしと空が付き合わなければあいつに会うことすら儘ならなかったんだ! ザマーミロ!
あんたよりも、あたしと空の方が根深い関係!」
……なにが好きになったせい、だ。
あんたはじいさんの脅しに屈して臆病風に吹かれているだけではないか。
どうして抗おうとしない。
自分ひとりで抗う、という視野を脱して、誰の手を借りてでも抗おうという視野を、どうしてあんたは持たないんだ。
言いだしっぺはあんたじゃないか。
死ぬ気で環境を変えろと諭し、あたしに教えたのはあんたじゃないか。
まだ抗える可能性が残っているのに、どうして屈してしまうんだ。
あんたはそんなヤワな女じゃないだろう?
可愛げのある娘じゃないだろう?
好きにならなかったら良かったなど、都合の良い現実逃避の口実にしか過ぎんよ。
あたしから見たらな、あんたはとても羨ましかった。
好きな奴と堂々婚約した上に親に祝福してもらえる、だなんて。
あたしなんて祝福どころか、ボーイフレンドと固定された上に引き離されてしまったのだぞ?
半年間、空を見ているだけの生活から片思い、ようやく結ばれた両思いも儚く消えてしまった。まるで泡沫(うたかた)のように。
先にあいつと出逢ったのはあたしなのにっ、なんでこんなことになったのだと、どれほど嫉視したか。
親を説得すらできなかった自分の不甲斐なさにどれだけ嫌悪したか。
今の空は、きっとあたし以上にあんたが“大切”なヒトだ。
女に対する“好意”は知らん。
あたしが勝っていると主張したいが、真実はあいつの胸の内にしかない。
それだけあんたはあいつを支えてきた。
あいつの気持ちを変えてしまうほど支えてきたんだ。
あんたの気持ちに嘘偽りはないのだろう?
例え、淳蔵さんが仕組んだ婚約だとしても、あんたの想いは真摯なものだったのだろう?
あたしだってそうだ。
親に引き離された残酷な現実はあるが、あいつを純粋に想っていた。
身分などなければ、と嘆いたがどうにもならん。
どうにかするには抗うしかないのだと気付かされ、今、自分のすべてを賭けて闘っているところだ。
玲、あんたも頼むから抗え。
好意に責任を感じ、好きにならなければ良かったと現実逃避するな。逃げるな。背を向けるな。
あんたがそんな想いを抱くというのならば、あたしもまた責任と後悔を抱かなければならん。
“空を好きにならなければ良かった”と想いたくもないことを想わねばならん。
一生後悔しなければならんぞ? あたしも、あんたも。
空以外の男を好いた時、同じことを繰り返すかもしれん。
「そんなのっ、虚しいではないか。好きになって後悔ばかりなどっ……、正直あたしは幸せだった頃の思い出を噛み締めておきたい」
あたし様の表情から余裕の笑みが消え、クシャクシャと皺が寄ってしまう。
きっと自分も同じ表情をしているのだろう。
玲は他人事のように思って仕方がない。
蚊の鳴くような声で、「好きなんだ」と呟けば、「あたしもだ」空のことが好きだ。そして好敵手のことも腹立たしいが好きだと鈴理。
幼い頃から好敵手の立ち位置。
今は恋敵の立ち位置にいる、そんな友人が大切なのだと彼女が吐露する。



