「まさかジジイがっ、豊福家と繋がっている従兄弟とコンタクトを取っていると思わなかった。借金を押し付けるよう差し向けるなんてっ。
僕の恋心を知りッ、彼を利用しようと根回しをしていたなんて。
僕は何も知らず、彼を支えてきた。原因が僕にあるとも知らず、彼を支えてきたんだ」
「……玲」
「豊福は馬鹿みたい恩を感じて、御堂家を慕っている。策略に嵌ったことすら知らず」
御堂家は借金を肩代わりしてくれた。
自分達、家族を助けてくれた。支えてくれた。借金地獄に陥らずに済んだ。
恩は返さなければ。
少しでも恩を返さなければ。
……豊福は、常々そう想って僕の婚約者に見合おうと努力していた。
たとえ理不尽な命令をされようとも、睡眠時間を削られようとも、自分の時間がなくなろうとも、僕のため、家族のために努力してきたんだ。
僕はそんな彼の姿を傍で見てきた。
時間に追われ疲弊している彼に安らぎを与えてきたし、借金のことで傷付いた彼を支え続けてきた。
なにより些少ならず彼が僕の傍で幸せを感じてくれていると知っていたから、少しでも彼の糧になろうと思っていた。いたのに。
まさか、こんな真実が息を潜めていたなんて。
鈴理、君はヒトの人生を劇的に変えてしまったこと、ないだろう?
正直精神的に参ってしまいそうだよ。
ヒトの人生を変えてしまうということは。
豊福が実親に対してトラウマを持つのも納得してしまう。
それだけつらく、心苦しく、罪悪に苛んでしまうものなんだ。
あの日、あの時、あの瞬間、あいつと出逢わなければ、豊福はこんな苦痛な生活を強いられることはなかったに違いない。
今日も、明日も、あさっても、愛すべき家族と和気藹々に過ごしていたに違いない。
誰より守りたい、幸せにしたい男を、誰よりも不幸にしていたなんて耐え難い苦痛だ。
好きにならなければ良かったと思うほど。
―――…けれど、それ以上に豊福が失うことが怖い。
怨まれることが怖い以上に、失いたくない。それだけ僕はあいつに好意を寄せてしまったんだ。
初めてだったっ、僕の男装……、男でありたい気持ちを酌んでくれる人間は。そして女の僕を受け入れてくれる人間は。
これからも僕は男という異性に羨望と嫉妬を抱くだろう。
その度に豊福は相槌を打ちつつ、女の僕を肯定してくれるに違いない。
そして僕に見合おうと、守ろうと、努力するに違いない。
だってあいつは生真面目馬鹿だから、両親と僕を天秤にかけて後者を取った。
大切な両親よりも、多大な恩があると信じて疑わない御堂家長女を取ったんだ。
なら、僕もそれだけのことをするまで。
少々心苦しくてもジジイの言いなりに成り下がってやるさ。
それであいつが守れるのなら。現実に傷付くあいつの泣き顔はもう沢山だ。笑っていて「自惚れるな!」
玲の言葉を遮るように鈴理が憤りを含んだ声を出す。
あからさま不快感を示す玲に対し、「何が責任だ」加害者ぶったことを言いつつ、結局、内では祖父に嵌められた被害者という立ち位置に甘えているだけじゃないかとあたし様は苦言した。
ますます不快指数を高める玲に、
「好きになったせいで?」
そうだ、好きになったせいでヒトの人生すら変えてしまうことがある。
もしあんたの主張が成り立つなら残念だったな。
真の責任を取るべき女はここにいる、と鈴理。
おのれを親指で指差し、白々しい笑みを浮かべてみせた。



