「ふざけるのも大概にしろよ、玲!
あたしは高1からの半年間、ずっと空に片思いしてきたのだ! 人がこつこつ努力をしてようやく結ばれたというのにっ、いけしゃあしゃあと人の物を強奪するとはいい度胸だっ。
言っとくが あんたの想いなど豆粒に等しい、覚えておけ!」
「ッハ。大破局した彼を健気に支え続けたのは誰だと思っているんだい? 僕がいなければ、彼は完全に現実に屈していただろうさ。
このまま僕に任せておけば良かったものをっ。君の想いなんて蒸発ものだよ」
「蒸発だと? 馬鹿を言え。あたしの想いは未来永劫だ。その証拠に、空は今もあたしにめろんめろんだ。なにせ、あたしの所有物なのだから!」
「ははっ、妄想も行過ぎると痛いよ。鈴理!」
座布団、ヒール、紙袋、枕、カゴの中に入っていた私物エンドレス。
居間から床の間、六畳間から八畳間、物が行き交う。
折角のスイートルームも、物が飛び交うことにより凄惨な光景になりつつあった。
しかし恋に燃える二財閥の令嬢の目には映らない。
止めることも、命令も忘れ、自分の感情を相手にぶつける。
謂わば日頃から募らせていた恋に対する鬱憤の嵐だった。
「鈴理。玲は止められっ、オワァアア?! 部屋がむちゃくちゃじゃねえか! な、何やってるんだよ、てめぇ等!」
止めるどころじゃねえ事態ってどういうことだよ!
二人のいがみ合いに大雅が割って入って来た。
彼は今まで、部屋の外で見張りを受け持っていたようだ、が、いつまでも鈴理が戻ってこないため、不安に駆られ覗いてみたのだ。
するとどうだ。
あたり一面に物が散らばっている。
カゴに入っていた物も外にぶちまけられ悲惨なことに。
異様な光景にドッと冷汗を流す彼は、何がどうなってこうなっているのだと双方を見やる。
そうしている間にも物が投げられ、「アブネッ!」彼は危うく剛速球の餌食になるところだった。
足元に落ちた物を拾ってみると、ッアーな本が開かれ大雅を見上げていた。
挿絵の部分が卑猥だったために、俺様は渋い顔を作るほかない。
非常に居た堪れない気持ちになる彼に非はないだろう。
どうにかして止めなければ、俺様が果敢に声を掛けるものの、「煩い!」「邪魔をするな!」般若のような顔をする令嬢二人に睨まれ、見事に硬直。
オンナの修羅場には大雅も俺様が発揮できない模様。
一方、二人は火花を散らし、物を投げながら言い合いを繰り広げていた。
折角のドレスも豪快に物を避けていくことで皺が寄る。
玲に至ってはこれから挙式だというのに、おめでたい披露宴に顔を出せる姿ではなかった。
それほど凄まじい物の投げあいを繰り広げる攻め女達である。
昂ぶった感情をそのままに、
「玲は本当に馬鹿だな!」
どうしてそこまで一人で何もかも背負おうとする! 鈴理が喝破した。
たった一人で“財盟主”と呼ばれた実力者の一人から、好意を寄せている男を守れるとでも思っているのか?
無理だろう。
まだまだ財閥界を知らない子供の自分たちだ。
いい加減に守って、また同じことを繰り返すだけだとあたし様は声音を張る。
一度の過ちはまた同じ過ちを呼ぶだけ、分かっていて一人で背負おうとしているならただの馬鹿だと罵った。
その言の葉に激昂したのは玲である。
「何も知らないくせに知ったような口をきくな!」
あいつは僕のせいで人生が狂った。
だから責任を取る必要があるのだと苦言。
誰ぞと知らないポーチを鈴理に投げつける。
「責任?」
やや冷静になる幼馴染が訝しげな眼を向ける。
その視線を受け流し、「僕が好きになったせいで」豊福の、豊福家の人生が狂った。狂ってしまったのだと顔を歪めた。
自分が好きになったばかりに、彼の家族は嵌められ借金を作ることになった。
五百万という大金の重荷を背負うことになったのだ。
すべては祖父の思惑通りに。
胸につっかえていた感情を吐き出した言の葉に驚愕したのは傍聴者達だった。
つまりそれは、五百万の借金を淳蔵が負わせたということか?
二人の問いに、「そうだ!」借金は祖父の差し金だったのだと叫ぶ。
一室を満たす声は悲鳴に近かった。
祖父宅に行った際、なおざりで借金を作った張本人と電話のやり取りをし、事実を知ったのだと奥歯を噛み締める。



