前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「玲、今からでも遅くない。こんなことはやめろ。支配ではなく、共栄を」

「どうでも、いいんだ」


「なに?」面食らう鈴理に、「支配とか共栄とか」そんなこと、どうでもいい。自分はただ好きな奴と幸せに過ごしたいだけ。
 
なにより婚約者の泣き顔を作らないようにするため、行動を起こすのだと無感に返す。

周囲に恨みを買われようが、殺意を抱かれようが関係ない。

この手に抱き締められる人間を幸せにできればそれでいい。


いやそうしなければならない。
守られてばかりの自分は、それだけのことをしなければならない。


それが贖罪の一歩にも繋がる。


「ジジイは言った。命令を遂行することができれば、豊福を僕に返す、と。ジジイが奪おうとしている家族の縁、環境を戻してくれる、と。
さすがに学校は転校しなければいけないようだけど、それでも、あいつの生活は随分マシになる」


「返さないかもしれないだろう。これを乗り切ったとしても、これから先、淳蔵さんは空をダシにあんたを利用するに違いない」


「それでもいい。覚悟の上だよ。―――…鈴理、邪魔立てするようなら容赦しない」
 
 
言うや否や、畳の上に転がっていたヒールを幼馴染に投げた。

紙一重に避ける鈴理はふざけるなと言わんばかりに舌を鳴らし、此方を睨みつけてくる。

簡単に受け流し、「手間が省けたよ」どうせ君のところにも赴く予定だったと玲は笑みを深くする。


祖父の命令は二つ。


ひとつは盗聴器の件。彼女が述べたとおり、業務を盗み聞こうとした。

そしてもうひとつ、祖父は他財閥の知名度を下げるよう命じた。


栄光に輝く財閥の知名度を下げることなど容易い。

ちょっとした不祥事を起こせば良いのだから。


皮肉にも彼女と自分の関係柄は恋敵。

少しばかり手を加えれば、元カノが自分に嫉妬して関係を壊すために暴走したという口実も作れるのだ。利用しない手はない。

それに薄々と勘付いたのか、「悪いがそれはさせん」あんたに負ける気すらしないしな、鈴理がうぇっと舌を出してきた。

 
「いいか玲。こういうパターンをケータイ小説で展開させる場合、独り善がりな行動を起こす女が負けるというロジックが成り立つ。
つまりあんたの負けだ。非王道カップルめ。お呼びではないのだよ!」
 

若干カチンである。

誰が非王道カップルっ……、まさか自分と婚約者を指しているのでは?


「ということは君達は王道カップルとでも? あんなに大雅とイチャイチャしておいて?」


「馬鹿め。あたしの起こす行動はまさしくヒーローではないか!
純愛していたあたし達カップルに親の魔の手。引き離された愛は横道にそれつつも、一途に愛を貫き、よりを取り戻そうとする。真のヒーローだな。

最後はらぶりんとくっ付く、これが王道だ。
後からやって来たあんたは所詮、あたしのお飾り! 派手に盛り上げてあたしを目立たせてくれ」


……このアマァ。

こめかみに青筋を立てる玲は握り拳を作り、

「だったら君達はテンプレカップルだ」

おとなげなく反撃した。


「て、テンプレ」口元を引き攣らせる鈴理に、「新鮮味がないね」そういうカップルはパターン化していき、ついにはマンネリ化に陥るのだと鼻を鳴らした。


ケータイ小説でいえばすぐに読者から飽きられるカップルなのだと皮肉る。

これからの時代は斬新さもなければ。


飄々とおどける玲の言葉に、「いっぺん地獄に落ちろ」中指を立ててくるあたし様。「君は奈落に落ちるべきだよ」うぇっと王子は舌を出す。



間、間、間。


笑顔、笑顔。



また間があり、双方に火花が散った。



「大体気に食わなかったんだ、玲。あんたはいつもいつもいつもいつも、あたしの好きなものを好きになって。こんのパクりオトコオンナ!」


ピキッ、玲のこめかみに青筋が立つ。
 

「そういう君こそ、平然と我が物顔であれが好き。これが好き。僕の真似をしているのかい? 諦めの悪い野獣オンナ!」


カチンッ、鈴理の表情が険しくなった。


「だあれが野獣だ! お腹真っ黒のくせに王子? お笑い種だ」

「君は単純単細胞だろう! 騎士? チビが騎士になれるとでも?」


もう片方のヒールを相手に投げつけると、手で叩き落され、投げ返される。

つい同じ行動を起こしてしまった玲だが、若干冷静を失いつつあった。


グルルッ、唸る鈴理に対抗して、フンと鼻を鳴らす玲。

手当たり次第に物が投げられ、部屋に多々放物線が描かれるのも時間の問題だった。