前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



【御堂玲の控え室にて】



ドレッサーと向かい合っていた玲は、鏡面に映る己の姿に誰だお前はと嘲笑したくなっていた。
 

短髪に飾られた髪留めつきの薄紫色のコサージュ。

ぼたんを彷彿させるような形をしているそれは見事に花開き、自分の髪を飾っている。

綺麗に化粧された顔、頬紅はもちろんのこと、薄紅色の口紅まで塗られて、さも乙女感が出ている。


桃色のパーティードレスを着ているその人間を見つめていると、ああ、男装少女も化けるものなのだとしみじみ痛感してしまう。

どんなに男になりきろうと自分は生粋の女であり、男とはまったく別の生き物なのだと、そう思ってしまう。


あんなに好きな男を攻めていようと、やはり自分は女なのだ。


「可愛いと、豊福は言ってくれるかな」
 

先ほど、ワンピース姿で彼の前に立ってみた。

見事に彼から“女性”を意識され、少しならず優越感に浸ってしまった。

ああいう反応をされると彼も自分を意識しているのだと実感、大きな期待を寄せてしまう。


今宵、眠れない夜が訪れる。

利用されることに反対の念を見せつつも覚悟を決めている彼と、明かすであろう一夜。

コドモからオトナに羽化する今夜。


どのような時間が訪れるのか、玲にすら想像がつかない。


ただ自分の行動は些少ならず視える。

きっと彼を貪るのだ。彼の覚悟も感情も体温もすべて自分の中に取り込むように貪り、本当の意味でおのれのものにしてしまうのだ。今の自分はそれを切望している。
 

受け男改め、自分の我が儘を受け入れてくれる男だ。

彼は自分の荒い行為を優しく受け止めてくれるだろう。

どんなに荒くても手を伸ばし、わっしゃわしゃと髪を撫で、仕方がない人だと笑いながら、そっと受け止めてくれる。

自分は強く彼を抱き締めながら、堕ちていくのを感じていくことだろう。借金の枷に嵌っている彼と、どこまでも。

……暗い展開だと玲は吐息をついた。昼ドラか、独り言を呟く。

 
「鈴理のことは言えないな。僕もとんだ獣だ。……堕ちていきたい、か。豊福はそんなこと望んでいないだろうな」


かと言って、彼を見捨てて他の男と付き合うつもりもない。男嫌いを舐めてもらったら困る。

アーモンド形に目を細め、玲は鏡面を睨む。


「ジジイの言いなりになっても」


守るべき人がいる。

チラッと視線を動かし、鏡面越しに掛け時計を見やる。もう時間だ。会場に行かなければ。
 
腰を上げようとした時、扉がノックされた。
返事をすると失礼します、と共に扉が開閉。

教育係の蘭子が中に入ってくる。

今日はいつもよりも着物がおとなしめだ。


けれどそのおとなしさに華があり、扇面模様の入った着物は見事である。


「見違えましたね」


嬉しそうに微笑み彼女は玲の下に歩み寄った。
立派な女性だと絶賛する蘭子。

長髪ならばもっと淑やかな女性に見えただろうに、余計な感想を述べて肩に手を置いてくる。

鏡の向こうで笑みを向けてくる彼女に目で笑い、「僕は大丈夫だよ」そう心配しなくてもいい。蘭子の心意を見抜いて返答した。
 

すると素顔になった蘭子が眉を下げる。


「蘭子はいつでも貴方の味方ですよ」


何かあればすぐに言って下さいね、優しい心遣いを垣間見せ、背後から軽く抱擁してくれた。

だから彼女は好きなのだ。二度、三度、大丈夫と返し、その腕を握った。
 

「そろそろ会場に行く時間だ。蘭子、先に行っててくれ」

「ご一緒しますが」

「気持ちを察してくれ。僕も緊張しているんだ。情けない姿は見られたくない。僕は豊福の王子だからね」


ウィンクすると仕方が無さそうに彼女は笑い、そっと自分から離れ、先に会場に行くと言って退室していく。