気鬱だと頭部を掻き、「でも」それ以上の気鬱は御堂先輩の件だ。
おじいさんに何を命じられ、彼女は俺のために何を起こそうとしているのか。
不安でしょうがない。
それが彼女の未来を壊すようなことであれば尚更だ。
早く御堂先輩の下に行き、彼女の起こす行動を止めたい。
俺のことなど気にせず、今まで通り、おじいさんに逆らって自分の道を進んで欲しい。
思いの丈は強くなる一方だ。
「なら空は絶対に捕まっちゃ駄目じゃん。アジ、空は駐車場で待機なんだろ? 早くそこに連れて行こうぜ。
おっと空、気持ちは分かるけど、お前が捕まれば俺達の起した消火器事件が表沙汰になっちまう!
不味いんだよ、お前が捕まって消火器事件を起こした責任を取らされるのは。母ちゃんに叱られちまう」
「ははっ、そういう問題か? イチゴ」
「ま、彼にはそういう問題だろうね。どっちにしろ消火器事件は表沙汰になるだろうけど」
おどける三人のやり取りに目尻を下げる。
自分で止めたいけれど、ここは皆を頼ろうと思う。
自分の感情だけで突き進んで物事が上手くいくかっつったらそうでもない。
ひとりでなんでもできる世の中じゃないって。
現実はそんなに甘くない。
人はひとりでは生きられない。
だから俺は友達に助けて、と手を伸ばした。
彼等はそれに応えようと、どこまでも走ってくれている。
いつか、同じような状況が訪れた時、俺も見合うだけの行動を起こしたい。
「アジくん。エビくん。イチゴくん。俺、駐車場に行くよ。彼女のためにも、さ。御堂先輩をお願いね」
任せとけと言わんばかりに、口角を持ち上げてくる三人。
「僕は空くんと一緒に行くよ」
誰かひとりついていた方が安心だろ?
空くんの見張りにもなれるしね。トランシーバーも持っているし。
エビくんの申し出に、「また見張り?」もう見張りは沢山だと大袈裟に嘆いてみせた。
どこに行っても見張り、お目付け、見張り、お目付け、みはり! 俺は囚人か! 生きた監視カメラはもういらないと悲観。
両手を挙げて降参ポーズを取った。
「財閥の子息なんてやめちゃいたいよ。庶民出には激苦痛。平民に戻りたい」
「あーっ、じゃあ今のお前は貴族ってか? 平民舐めんなよ!」
笑声を零すイチゴくんとハイタッチ、つられて笑うアジくんともタッチして、「ごめん。後は頼んだよ」二人に事を託す。
頷く二人が先に男子便所を出て行く。俺の着ていたスーツを身に纏っているアジくんが、もしものことを考えて先に行動を起こしてくれたんだ。
今度こそ無事に森崎さん達と合流できるといいけれど。
祈る気持ちで二人を見送り、エビくんに視線を流す。
眼鏡のブリッジを押して視線を返してくるエビくんに頬を崩した。
「ありがとう。この借り、絶対に返すから」
「当たり前だよ。まったく本多といい、翼くんといい、お守りをするのは大変だ。あの二人は見境なく走る習性があって困るよ」
だから君にもお守り役を命じたいね。
冗談を口にしてくるエビくんは一先ず、安全な場所に移動して迎えが来るのを待とうと提案してきた。
トランシーバーで一報を寄こせば、森崎さん達の仲間が此処を訪れてくれるだろう。
言うや俺に背を向けて奥へ進んでいく。
「安全な場所?」
そんな場所あるのかと聞けば、「鍵付きであるじゃん」親指で個室をさした。
ああ、なるほど。
確かにそこは打ってつけだ。



