結局さ。
現代社会にも身分は存在するんだよ。
昔のように目に見える身分差はなくなったけれど、水面下では身分という肩書きが息を潜めている。
俺はその身分に触れて、随分傷付いた。悩んだ。
相手とつりあわないんじゃないかと苦悩したし、俺が庶民だったばっかりに傷付けたことも沢山あった。
金があるうんぬんで身分が決まるもんなんだなぁって世間体に悲観したこともあったっけ。
「それでもさ。鈴理先輩が告白してきてくれたことに、そして俺が彼女に恋をしたことに後悔なんてないんだ。
こうして御堂先輩と出逢えたのも、財閥と繋がったおかげ。
大雅先輩や宇津木先輩とだって、財閥と庶民ながらも友人としてやっていけている。俺は後悔していないよ」
「こんな目に遭っても?」
「アジくん。繋がりってさ。どこでどう自分の人生と関わっていくか、分からないもんだよ。一々気にしていたら誰とも繋がれなくなるって」
俺も気にするタチだから偉そうなことはいえないけど、少なくとも財閥と繋がったことに悔いはない。胸を張って言える。
「確かに困ったことにはなっているんだけどね。
……婚約式が終わったら俺は名前と今の生活を全部捨てないといけないし。あの、その、だ、だ、抱かれないといけなっ」
「はあ?! 子作りするのかよ、今日!」
「……ッ、子作りならまだマシだよ。俺、殺されるかもしれない。婚約者に殺されるよ。今夜を持って女の子にされるかもしれない」
モザイク化されたえげつねぇ物を思い出し、どーんと落ち込でしまう。
あれを俺に使われると思うだけで胃痛アイタタである。
頭上に雨雲を浮かべていると、ザザッ、ザザッ、とアジくんからノイズが聞こえた。
やけに汚いノイズだ。
何の音だろう?
首を傾げていると、懐から分厚い携帯機を取り出した。
それはスマホやガラゲーと呼ばれた最新機器ではない。
やたら不恰好なスタイルをしている。
けれど俺には魅力的に見えて仕方がない。
そ、そ、それは野郎なら誰しもが憧れるトランシーバーというものではっ!
目を輝かせている俺に、「カッケーだろ?」森崎さん達が貸してくれたのだとアジくんが鼻高々に説明した。
やっぱりトランシーバーだ!
い……、いいなぁっ!
昔、探検ごっこや警察ごっこでお菓子の箱をトランシーバーに見立てて作っていたんだけど、やっぱ本物はパねぇ!
見ろよこの重量感ある機械。
分厚さが堪らないじゃないか!
トランシーバー特有のノイズがまた雰囲気を出しちゃってっ……、是非俺も後で触ってみたい。
機械音痴も夢見る機器だよ、それ。
携帯より遥かに魅力的なトランシーバーを観察する俺を余所に、
「こちらホース・マッカラルです。どーぞ」
アジくんがいかにもなやり取りを始めた。
『こちらシュリンプです。聞こえていますか?』
ザザッ、ザザッ、ザザザザッ。
ノイズに混じった聞こえづらいエビくんの声に聞こえるとアジくんが応答した。
出るのが遅いと文句垂れるエビくんは、イチゴくんと一緒だと旨を伝え、追っ手を撒くことに成功したと報告してくる。
微かにイチゴくんのトランシーバーに対する興奮が聞こえてくる。
野郎は皆、似たり寄ったりの生き物だよな。
こういう機器にはすこぶる興奮してしまうものだ。
少年期の童心を揺さぶられる。
「こっちも成功した」
今、空と一緒だとアジくんが受け答えする。
「今から空を駐車場に連れてってもらうから。お前はイチゴを連れて森崎さん達と合流してくれ。プロのオトナが一緒だともう安心だろう」
「え、駐車場って」
トランシーバーを切ったアジくんは、
「婚約式を中止させる」
それをやる手っ取り早い方法は主役不在。
だからお前を連れ攫う、物騒なことをのたまう男前くんに眉根を寄せる。
つまり、それは事が終わるまで駐車場で待機してろってこと?
そんなことできない。
御堂先輩を止める側に俺も回りたいのだから。
首を横に振り、同意できないと意見した。
「行くんだよ空」
すかさずアジくんが返事してくる。
「御堂先輩は竹之内先輩と大雅先輩が絶対に止めてくれる。お前はおとなしくしているんだ」
「でも!」
「いいか空。主役のどちらか片方でも淳蔵ってじいさんの手中にいたら、俺達は勿論、お前が助けたがっている御堂先輩だって思うように動けない。
現にお前は人質に取られている。御堂先輩はお前を救おうと奔走としている。違うか?」



