前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



バイバイ、と手を振って見送った俺は捨てられた子犬の表情から一変。
 

扉に歩み、耳を当てて相手の足音を聞こうと努める。

聞こえないな。
紙コップを持ってくるべきか?


眉を寄せ、ジッと息を潜める。

分からないからドアノブを回して、廊下を確認。

博紀さんはいなかったけれど、廊下の向こうに部下の人らしきニンゲンが立っている。

左右両方角に配置されているようだ。


静かに扉を閉め、腕を組みながら部屋をうろうろ。
 

さて、どうしたものか。お目付けがいなくなった今がチャンスだけど。

俺が従順になっているからきっと博紀さんも油断している(従順になった途端、妙に優しくなった。何をもくろんでいるやら)。


今しか行動を起こすチャンスは、ないの、だけれど。
  
 

(外に出て御堂先輩に会う、にも、場所が分からない。下手に動けば、すぐに捕まってしまうし。人質のイチゴくんをダシに使われるしな)
 
 

控え室に隠しカメラがないとも限らない。

お目付けがいなくなっても不自由な状況は変わらないから困ったもの。

思考をフル回転にして唸っていると、扉がノックされた。


博紀さんが戻ってきたんだ!

マジですぐに戻ってきたんだなっ。
 

どうぞと返事。

博紀さん、本当に早かったんっすね。

良かった、と言葉を掛けた。
同時に訪問者が駆け出し、突っ立っている俺の下にやって来た。


瞠目。
手の平で口を押えられ、眉間に指ピストルが突きつけられた。

ニッと笑う訪問者、否、スーツを着た侵入者は指ピストルを引いてグラサンをずらしてくる。



「コードネーム、ホース・マッカラル。只今参上! ってな」



ホース・マッカラル!


パッと聞けばカッコイイ気もするけれど、和名するとアジ!

俺の中で常にベスト・キング・オブ・男前に賛美されている少年!
 

「アジくん!」一週間ぶりに会う懐かしい友人の手を取り、助けに来てくれたんだね、と固く握手を交わす。

「この馬鹿!」どうして相談してくれなかったのだと手を握り返してくるアジくんは、とても心配したんだぞ、と苦言した。
 

「学院を去りそうになったら俺達に言えっつったのに。お前、黙って消えようとしてさ。心配で来ちまったじゃないか」

「ごめん。本当にごめん。そしてありがとう。アジくんっ、助けに来てくれて嬉しいよ。シュリンプは?」


シュリンプのことエビくんを目で探す。彼の姿は見えないようだけど。
 
話は後だ」今は此処を抜け出そう。言うやアジくんが俺の腕を掴んで駆け出した。


「でも」「いいから」躊躇う俺を強引に走らせ、アジくんが廊下に飛び出した。


廊下には見張りがいる筈なんだけど……、部屋を出ると人の気配がまるでない。