彼等の優しさに胸打たれ、思わず御堂先輩を、イチゴくんを助けて。そう伝えたくなったけれど、ポンッと後ろから肩を叩かれたことにより現実を思い出させられる。
「長居はできませんので」
博紀さんに諭され、うんっと頷いた。俺は主役だ。もう戻らないと。
「空さま」
声音がやけに冷たい。
疑いの眼をひしひしと感じる。
俺の心境を読もうとしている。
博紀さんの、本心を。
軽く宙を見据え、吐息を呑み、俺は決意して命の次に大切にしているお守りを取り出した。
生みと育ての両親、各々写った写真はいつ見ても癒される。励みになるし、勇気をもらえる。
―――…ごめん、父さん母さん。
博紀さんに万年筆を貸してくれるよう伝えた。
何をする気なのだと問い掛けてくる博紀さんから万年筆を受け取り、写真の裏に今日の年号と日付を走り書き。
二枚の写真に各々記すと、近場にあった屑篭にぞんざいに放った。
これには鈴理先輩が驚愕の顔をあらわにする。
写真を手放すことが俺にとってどういうことなのか、鈴理先輩やお目付けにはよく理解して頂けるだろう。
それだけ俺はこれを肌身離さず大切にしてきた。
「空っ、何しているんだ! それはあんたの大切な物じゃないか!」
「たいせつ? 何が大切なのか、俺にはよく分からないです。だってもうイラナイ人たちになるんですから」
「空!」鈴理先輩の喝破もなんのその。俺にはもう必要のない繋がりだと顧みて一笑を零す。
「御堂家の邪魔になる物は全部捨てる。それが淳蔵さまの望みっす。今までの俺はもうイラナイんっすよ。
ふふっ、挙式が終われば、俺は御堂になります。どうぞ豊福の名は忘れてくださいね」
俺が豊福という名前を名乗れるのは今日までなのだから。
さっさと屑篭から離れ、俺は皆に会釈して博紀さんを呼んだ。
来賓に対して丁寧にお辞儀をするお目付けは俺の後を追って来る。
廊下の角を曲がり、早足で控え室に向かう。
けれど次第次第に歩調が遅くなり、ついには足を止めてしまった。
片手で顔を覆い、自分の行いに苦悶する。
……嗚呼、捨ててしまった。
ついに俺の支えにしている宝物を。
たいせつなひとたちを。
ごめん、父さん、母さん。本当にごめん。
「博紀さん。これで良かったんっすよね? 俺の判断は間違っていないんですよね?」
相手に同意を求めると、「ええ」貴方の判断は正しかったですよ。
皮肉ばかり零すお目付けが素直に褒めてくれる。
「そうっすよね」
俺の望みは御堂先輩を守ることにあるんっすから。
力なく笑い、俺は止めていた足を動かす。
控え室の前で立ち止まり、ドアノブに手を掛ける。
同時に後ろから両肩に手を置かれた。
「余計なことはすべて忘れてください。貴方は御堂家のものなのですから」
「はい」素直に返事した俺はそっと扉を押し開けた。



