前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―






「む? あれは空だな。空、そーら!」
 
  

変わりない声に笑顔。

勢いよく手を振って来る姿が可愛らしく見えるのは、俺の気持ちの問題かなぁ。
 

会釈して挨拶する俺に、「招いてくれてありがとうな」おかげであたしは激情の嵐なのだよ、とズカズカ歩んで迫ってくる。


気迫に押され、俺は思わず後退。


お構いなしに「まったく」

ズカズカ「所有物のくせに」

ズンズン「人を嫉妬させるのが上手いな」


そのまま壁にどーん!


ノッケから攻められた。ご挨拶代わりに攻められたよ。あたし様は今日も絶好調だよ。

冷汗だらだらの俺はどうにかこうにか笑みを作り、「来てくださり嬉しいっす」今日は楽しんでくださいね。

当たり障りのない挨拶でその場を凌いだ。
下手に相手の言葉にツッコんだら負けな気がする。


ジトーッと見上げてくる鈴理先輩に、「駄目っすよ」こんなことしちゃ浮気じゃないっすか。

お互いに婚約者がいるんですから、と愛想笑い。
 

「おやん? いつぞかに浮気じみたことを言われたような気がするのだが気のせいか?」
 

ぼ、墓穴を掘った!

自分で自分の首を絞める羽目になった俺は苦虫を噛み潰した面持ちを作り、「気のせいっす」と誤魔化した。
 

「よっ、豊福。相変わらず俺様の嫁に攻められるな。一応言うが、俺の嫁だからな」
 
 
助け舟を出してくれたのは大雅先輩だった。
まさか大雅先輩が鈴理先輩のことを嫁と言う日がくるなんて!


「受け男になる決意をしたんっすね!」


握り拳を作って相手に聞くと、「んなわけあるか!」俺は今も昔もこれからも攻め身だど阿呆! と怒声を張られた。

そこまで怒らなくとも。受け男には受け男なりの良さがある、わけじゃないけど……、でもでも寛大な男として見られる筈っすよ!

だって女性の望みを第一に考えているんっすから!
 

「玲はいないのか? あいつにも会いたいと伝えたのだが」


唇をヒヨコのように尖らせる鈴理先輩は不満そうに鼻を鳴らした。
 

「御堂先輩は身支度に時間が掛かるんじゃないっすかね。鈴理先輩も時間掛かったでしょ?」

「うーむ。そうなのだよ。主役は何かと派手な衣装を着せられてな。婚約式など懲り懲りだと思った瞬間だった。今度挙式をする際はスーツと決めているのだ。な?」


何故俺に同意を求めるんっすか? そこは大雅先輩に求めるものっすよね?

「あそこにいるのはアンタの目付けか?」

鈴理先輩が横目でお目付けを観察した。
博紀さんは人の好い笑顔を作って会釈。

この二重人格者、心中で毒づきつつ俺は首肯した。


「庶民出なので、分からないことが多くて。彼には始終助けてもらっているんっす」

「なるほど。始終、ね。あたし達にも新しい使いが増えたのだ。森崎達の部下に当たるのだが、是非空に紹介したくてな」
 

おいでおいでと手招きすることによってグラサン男が整列。


どーしてこんなところにまで来てグラサンを掛けているのだろう?

傍目から見たらこのガードマン達の方が怪しい。

だってよ?
スーツにグラサンだぜ?


マトリックスにでも憧れてるんっすか?!


引き攣り笑いを浮かべていた俺に、「新米はこの二人だ」と鈴理先輩が指差す。

軽くグラサンをずらしてきた新米二人に度肝を抜いてしまった。

表に出さなかったのは幸いだろう。


「こんにちは空さま。こちら、竹之内財閥のガードマンです。コードネームはホース・マッカラル。宜しく」

「同じくコードネームはシュリンプです。……、ああ、もうやだなぁ。この名前」


な、何してるの、君達―――!
 
わざわざあだ名を英語読みにッ、一種の中二病にでもかかった?!


思わず笑いそうになったじゃないか!


揃ってグラサンを掛けなおすフライト兄弟を自慢げに紹介してくる鈴理先輩は、「頼もしそうだろう?」新米なりに働いてくれるんだ、と目尻を下げてくる。


その視線の意味を悟った俺は軽く下唇を噛み締めた。

博紀さんが背後にいて良かった。隣にいたら俺の情けない顔がばれていたに違いない。


皆、助けようとしてくれるんだ。
馬鹿なことをしたのは俺なのに、皆、助けての一言で、ひとことで。


先輩たちなんて今日が賭けの決着日なのに、それすら放置しているんじゃないだろうか?


俺達を最優先に助けてくれようと、してくれているんじゃないだろうか?