極めて健全な方法でぬくもりを共有した俺達は、時間まで和室スイートでひと時を過ごす。
将来に対する不安はあったし、できることなら今此処で御堂先輩を止めたいところだけれど、どうにもこうにも俺の周りには生きている監視カメラが付きまとっているようだ。
始終お目付けの気配を感じていた。
時間になると各々控え室へ。
女の子だから支度に手間取る先輩から退室し、俺も遅れて部屋を後にする。
そこで真新しいスーツに着替えるんだけど、対して俺のビフォーアフターは変わらないと思う。
しいて言えば、やたら高そうなネクタイと胸にピンブローチを付けられたことくらいか?
スタイリストさんに髪を整えられ、お目付けに簡単な流れを教えてもらい、立ち振る舞いをチェックされ、エンドレスエンドレス。
わりと忙しい時間を過ごしていた。
それは俺が主役だからだろう。
目を盗んで抜け出そうと思っていたのだけれど、この調子じゃできそうにない。
そうそう、控え室に御堂御夫妻が来てくれたよ。
既に事情を知っている源二さんは、勝手に出て行った俺を咎めもせず、寧ろ謝罪して眉を下げてきた。
今回の一件、そして挙式のことはまだ俺の両親に伝えられていないようだ。
本当は俺の両親も出席させたかったのだけれど淳蔵さんが許さなかったらしい。理由は言わずも、だ。
源二さんは俺の知らないところで奔走しているようだ。
「豊福家と縁を切るつもりは無いから」と俺を励ましてくれたよ。
その気持ちだけで嬉しかった。
実の息子の源二さんでさえ、淳蔵さんには逆らえない節があるのに。
一子さんには泣かれたよ。
「これからはお義母さんと呼んで下さいね」
とか言われちゃって、あ、やっべ、少し泣きそうになった。
家族愛にはめっぽう弱い俺であるからして、そういう台詞を贈られると涙腺にくるのである。
ううっ、無性に父さん母さんに会いたくなってきたのは俺が両親至上主義だからだろう。
やっぱり縁は切りたくないよ。
親孝行だってしてやりたいし、もっと三人で時間を過ごしたい。
誰に強制されようとも、心までは抗えない。
俺達は正真正銘の家族で親子なんだと信じている。
二人は今、何をしているんだろう? 元気に過ごしているのなら、息子も凄く嬉しい。
軽い軽食を取っていると、五時五分前を迎える。
そろそろ受付が始まる刻だ。
準備のためにホテル員の人が慌しく駆け回っている。
俺も来賓に挨拶をすべく行くべきでは?
そう思ったけれど、受付や挨拶のすべては博紀さん達が受け持ってくれるようだ。
あくまでも主役は会場で愛想笑いを作って祝福されろってことだ。
困った、動けない。
悶々とホテル員のひとりが俺に声を掛けてきた。
「ご友人様がお見えですよ」
どうしても面会したいとのことですが。
相談を持ちかけられ、俺は博紀さんに視線を流した。
「どちら様ですか?」
彼は主役なのであちらこちらに顔を出せるほど時間も無いのですが。
お目付けの問いに、「竹之内鈴理様です」とホテル員。
―――…鈴理先輩、が、面会を求めに?
自然と高鳴る鼓動を抑え、俺は平常心を保った。
(やっぱり淳蔵さんは竹之内財閥も呼んだんだ。まさか、まだ狙って……?)
目ざとい博紀さんが俺の動揺に気付かないわけもなく、「そうですか」お会いしましょう。
なんぞと試練を与えてくる。
まさかの事態だった。
試されているのだと察したのはこの直後。
宜しいですよね? 有無言わせない微笑みに、うんっと俺は頷く。
控え室を出る際、そっと耳打ちされた。
「貴方様のご身分を忘れずに」と。
俺の気持ちすらも見抜き、脅しの道具にしてくるんだからタチが悪いよな。
博紀さんも、淳蔵さんも。
会いたいような、会いたくないような、そんな気持ちを引き摺って廊下に出る。
控え室と同じフロアにある、ちょっとした喫茶スペースに赴くと本当に彼女がいた。
桃色がやけに引き立っているイブニングドレスを身に纏っている彼女。
隣には、ダークスーツを着た婚約者の姿もいる。
揃って俺に会いに来てくれたのか。
気まずいな。
自分の失態を暴露しているんだ。
どんな顔をして会えば良いのか分からない。背後には博紀さんもいるし。
あ、他にも人がいる。
森崎さん達かな? グラサン男が数人立っていた。
先輩は誘拐されたことがあるし、厳重に守られているんだろう。



