その間にもカードキーが解除され、誰かが中に入ってくる。
平然を装って座椅子に腰掛けた俺は、テーブルに肘をつきつつ相手を確認。
目を削いでしまった。
ずるっと手の平から頬が滑り、体勢を崩してしまう。
六日ぶりに見る御堂先輩。
相変わらずハネている亜麻色の短い癖ッ毛。クオーターの瞳は日本人には無い輝きを宿している。
常に男装を好む筈の婚約者が、レースリボンの目立ったロングスカートを着ているんだ。
肩リボンカットソーで肩を露出させているところが色っぽいのなんのって、そりゃ、驚くんっすけど。女の子なこと極まりない。
言葉を失っていると、「変。かな?」しおらしい声で此方を見つめてくる王子。いや王女。
もうお姫様と呼んでもいいっすかね?!
我に返った俺は不意打ちは反則だと心中で呟き、ガシガシと頭部を掻いて視線を逸らす。どうしても直視できない。
静かに向かい側に座ってくる彼女にようやく感想を述べることができた。
「可愛いっすよ」
普段の姿を知っているだけに、凄い可愛いと言葉を贈る。
「なら、ちゃんとこっちを見て」
彼女の主張に今はできない、と俺。
「どうして?」
御堂先輩がやっぱり変なんじゃないかと自信を失くしたような素振りを見せるから、「俺自身の問題なんっす」先輩は変じゃないと即答で否定した。
眼が理由を求めているから、観念してボソボソっと返事する。
「直視したら俺はきっと鼻血を出すっす」
「それってつまり、僕に興奮してくれているってことかな? 嬉しいな」
~~~ッ、そう言われるのが嫌だから、はぐらかしていたのに!
口を噤んで窓辺の向こうの視線を逃避させる。
喧騒な高層マンションばかり目立つ景色だけど、和室スイートルーム内は静寂を保っていた。訪問者を癒すための静寂にすら思える。
緊張で高鳴る心音を無視していつまでも景色を眺めていると、「あ」紙袋がちゃんと届いている。良かった。御堂先輩が綻びを見せた。
対してビシッと硬直するのは勝手に代物を覗き込んだ俺である。
平常心を保ちながら、「あれはなんっすか?」とさり気なく質問。
すると先輩は満面の笑顔で、
「僕と豊福が喜びそうなものだ。ネットで頼んでおいたんだ」
僕と豊福が喜びそうなものぉ? あれがっすか!
「中身はなんです?」努めて平常心を保つ俺に、「今は内緒だ」けれど豊福も絶対に喜ぶから安心しろ。
きらっとキメ顔を作る婚約者がそこにはいた。
果たしてあれが俺の喜ぶ物なのだろうか?
ツッコミたいけど勝手に見た罪悪もあるから、頑張って笑顔を作り楽しみにしていると答えた。
ハニカミを見せる御堂先輩がよたよたと四つん這いで移動してくる。
いつもと違う女性らしい格好に目のやり場に困ってしまった。
何処を見ても色っぽいんだもんなぁ。
女の子って化ける生き物だよ。
ちなみにこれは褒め言葉だから。
「豊福」
俺を見上げてくるその視線は所謂上目遣いというものである。
つくづく対処に困るアクションばかり起こしてくる彼女だけど取り巻く雰囲気を読んでしまい、俺は微苦笑を零した。
「来て下さい。先輩」
座椅子から離れ、ちょいちょいと手招き。
ふわっと笑う婚約者が膝にごろんとしてくる。
ほんっと猫みたいな人っすね。
こんな時まで人の膝を陣取るんだから。
いや、それともこんな時だからこそっすかね。
……今なら二人きり。先輩とちゃんと話し合えるチャンスなんじゃ。
そう思って口を開いたけれど扉の前に人の気配を感じ、口を閉じて目を伏せてしまう。
駄目だ、此処で気持ちを先走らせたら人質に取られているイチゴくんに危害が及ぶ。
俺はまだ完全に信用されていないんだな。淳蔵さんにも、博紀さんにも。
目ざとい彼女に悟られないよう、髪を手櫛で梳いてやる。
「何も聞かないんだね」御堂先輩が見上げてきた。
目尻を下げ、「待つと言いましたから」それに覚悟はもう決めているんっすよ。虚勢を張ってみせる。
彼女も不安なんだ。
強がらないわけにはいかない。



