前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



挙式の日は準備が慌しいようで、正午前には霞館を後にした。

式は午後六時からだろうに、主役の俺はもう式場となっているホテルに向かわなければいけないそうな。

博紀さん曰く、「一夜はそこのホテルで過ごすことになっておりますので」だってよ。


ははっ、マージで?
本当に一室を用意してくれてるんっすか?


嗚呼、胃が疼き始めた。今晩なんて来なければいいのに!
 

嘆いても時間は一刻一刻過ぎていくもので、正午過ぎに俺はホテルに到着する。

一体此処が何処のホテルでどれほどの知名度があるのか見当もつかないけれど、一見して高そうなホテルだってことは判断できた。
 

イチゴくんとはロビーでバイバイし、俺は博紀さんに連れられてホテルの最上階へ。

彼が誘導してきたのはこれまた高そうな一室。

金ぴかプレートが付いた洋室の扉を潜るとあれまあ、だだっ広い畳部屋が顔を出した。


畳の好い香りがする。

緊張を解きほぐしてくれる安心した香りに肩の力が抜ける。
 

六畳と八畳の二間を有する和室で、ご立派な掛け軸や和式のテーブルセット。座椅子が俺を迎えてくれる。

襖にも鮮やかな絵が入っていて綺麗だ。窓辺に歩むと喧騒した街並みがガラス越しに見えた。


すっげぇ、都会の喧騒が目の前にあるのに、ちっともこの部屋は都会臭さを感じさせない。

ついでに高所を感じさせない。
おかげで高所恐怖症も安心して過ごせる。
 

「凄いっすね」


控え室にこんな上等な部屋を用意するなんて。

ニッコニコ顔で相手に言うと、「お気に召しましたか?」此処は和室スイートでございますよ、と博紀さん。


「今晩はこの部屋で心行くまでお過ごし下さいね」
 

目が点になった。

え、此処、控え室じゃないの? 和室スイートぉ? ってことは、あれまぁ、俺と御堂先輩が一夜を過ごすお部屋って此処なんですか?


折角安堵感が胸に広がっていたのに、一変してドドド緊張。

挙動不審に部屋を見渡す。

八畳の部屋は食事やテレビを見る寛ぎスペースのようだ。


ということは六畳の部屋が床の間になるということで?
 

だぁあああっ、なんで今、この部屋に連れてくるんっすか!

挙式も終わっていないのに連れてこられてもっ、生まれるのは緊張ばかりなんっすからね!



「あ。空さま、これ。僕からの贈り物です」

 

頭を抱えて身悶えていた俺に、博紀さんがハイっと茶紙袋を手渡してくる。

おずおずと受け取り、生唾を飲んで中身を開く。


瞬間、脳内が沸騰した。
赤面して相手を凝視すると、腹黒さを窺わせる満面の笑みを返された。


「ひ、博紀さん。これは」

「受け身だとはいえ、やはり準備するのは男の役目かと思いまして」


「このボトルは」「ローションです」「こっちの意味深な個包装は」「所謂ゴムですね」「錠剤は?!」「痛みより快楽の方が良いかと」「……」
 


「空さま。錠剤で相手を翻弄させ、自分を優位に立たせることも可能ですよ。脱受け身も夢じゃないです」



グッジョブと親指を立てられるけど、そ、そげな物騒なことを誰がするんっすか!


もしかしなくとも俺っすか!


瀕死のダメージを受ける俺に、「本も入っているんで」お召しの時間まで勉強していても良いかと。

博紀さんは余計な気を回して人を混乱に貶めた。


「本って」


紙袋から取り出したブックカバー付きの実用書を取り出す。

ぱらぱらとページを捲って脳内ドッカーン!


挿絵ばっか!
ひ、ひ、ひ、卑猥な絵が俺にタリラリランのコニャニャチワしてくるんだども!