【長男・二階堂楓の報告】
「楓さん。鈴理さんから聞きました? 玲さんと一向に連絡が取れないそうですよ」
竹之内財閥次女・真衣ちゃんから声を掛けられ、自分のノーパソを弄っていた僕は顔を上げる。
反応の薄い僕に遺憾の意を示したのか、「聞いていますか?」非常事態なのですよ。お母さんのようにガミガミと叱ってきた。
相変わらず今日も真衣ちゃんはパワフルだな。
世間一般的には淑やか女で通っているのに、僕の前では強気お嬢様なんだよ。
「このままで良いのですか」詰問に、「とても不味いよ」余裕綽々に口角をつり上げた。
キーボードから指を離し、にっちもさっちも行かない状況だと両手を挙げる。
側らに見えるUSBメモリを一瞥し、大袈裟に溜息をついて眼鏡のブリッジを押した。
「大方、御堂淳蔵が僕等の行動に勘付いて孫に先手を打ったってところだろ? あのじいさん、やってくれるよな」
「何故簡単に結論付けることができるんですか?」
「ああ。だってあのUSBメモリに盗聴器が付いていたから」
あっけらかんと申せば、「へ?」間の抜けた声が返ってきた。
真衣ちゃん、今の表情イタダキだよ。ナイスリアクション!
へらへらっと笑う僕に対し、「盗聴器って」どういうことですか? 途方にくれる真衣ちゃんがそこにはいた。
「だから盗聴されていたんだって」
僕は参った参ったと大笑いして、ノーパソからUSBメモリを引き抜く。
「これ。豊福くんが僕達のデータを守るために用意した物なんだろうけど、どうやら二重トラップが仕掛けられていたみたいなんですよぉ。
豊福くんがヘマした場合を考えて、これに盗聴器を仕掛け僕等の行動を探る。ははっ、御堂淳蔵らしい策略だね!」
食えない男だと笑声を漏らす僕に絶句する真衣ちゃんは、どうして能天気に笑っていられるのだと両肩を掴んで揺すってきた。
顔面蒼白にしている彼女はどうするのだと声音を張ってくる。
ついで、ハッとした表情で口を噤んだ。
この会話も聞かれているのではないかと思ったらしい。大丈夫だと僕は右手を挙げる。
回線を少し弄った。
今頃、向こうに聞こえているのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のBGMだろう。
僕はこの映画のBGMが大好きなんだよな。かっこいいじゃん!
僕もあのイカす車に乗って過去に戻りたいね。
うっかり、過去のうちの母さんに惚れられて大ピンチを迎えてみたいよ。
見当違いの意見を耳にした真衣ちゃんは引き攣り笑いを浮かべ、「もしかして」最初から知っていたんじゃありません? ジロッと見据えてくる。
おやおやなんとのことだか。
おとぼけてみるけど、付き合いの年月は嘘をつかない。
「最低です!」なんで早く私達に教えてくれなかったのかと両頬を抓ってきた。
アイデデデ! ちょ、本気で抓んないでって! 痛いじゃないか!
「じゃあ向こうに知られているんじゃありませんか? 共食いのこと」
「おおあひゃりひぇす(大当たりです)」
「な・ん・で・す・って! 楓さんっ、貴方って人はどうして味方を窮地に追い込むようなことをッ……、鈴理さんがどれだけ頑張っているとお思いで?!」
し、シスコン。真衣ちゃんのシスコン!
ギブギブと声を上げる僕の頬をぎゅーっと一層強く抓った後、ようやく手を放してくれる。
酷いじゃないか、赤くなっているであろう両頬を擦る僕に自業自得だと真衣ちゃんは眉をつり上げた。
「どうして向こうに盗聴されるようなことをしたのです? あの子達の苦労を水の泡にさせる気なのですか? 玲さんと会おう会おうと奔走しているお二人がかわいそうです」
「相手を騙すなら、まず味方から。そうだろ?」



