「意外かい?」感情が表に出てしまったようで、お嬢様に苦笑されてしまいました。
「そう、ですね」お嬢様がワンピースを持っているなんて意外でした。
正直に答えると、「これは両親に押し付けられたものなんだよ」玲お嬢様が肩を竦めます。
故意的なのか、此方に視線は流れてきません。
「片指程度しか着たことがないんだ。僕には似合わない、と思ってね。男装を好む僕だ。女らしい格好をしたくなかった」
何より僕には相応しくない。
女という性別を受け入れられない僕には到底……、そう思って着ることを拒んできたんだよ。
語り部に立つお嬢様の横顔は哀愁漂っていました。
どうしてそのようなお顔をするのか、今の私には心中を察することができません。
眉を下げて静聴していると、「数回の内」僕はお見合いでこれを着たんだ。お嬢様がやや気恥ずかしそうに苦笑しました。
今度は察することができました。
お見合い、それはきっと豊福家とのお見合いを指しているのでしょう。
「勝手にセッティングされたお見合いだ。当時の僕は不機嫌も不機嫌でね」
まさか、片恋の豊福家長男が見合い場にいるとは思わないじゃないか。
見合いだからと無理やりこれを着せられて、引き摺られるように見合い場所に行ったら、あいつがいて。
僕もあいつも仰天さ。向こうは向こうで借金の話し合いに来たつもりでいたのだから。
……あいつはワンピースを着た僕を見て“可愛い”と言ってくれた。
こんな僕を“可愛い”と言ってくれたんだ。
それまで女の子に可愛いと数え切れないほど言ってきた僕だからこそ、戸惑ったし、恥ずかしかったし、着替えたくなった。
カッコイイと言われたことはあれど、面と向かって可愛いなんて言われたことなかったんだ。
僕は幼少から男装を好む女だったから。
「振り返ると正直、悪い気はしていなかったんだと思う。
おかしいな、男装をして男のように振舞っているくせに拒絶反応は出なかったんだ。僕の男装は男への憧れと、男以上の存在になるための決意の表れなんだ。なのに」
「玲お嬢様」
「本当に男に羨望を抱いているのなら拒絶反応が出る筈。
けど僕は嬉しかったんだ。好意を寄せている男に可愛いと言われて。セーラー服の時もそう、あいつは僕を見て可愛いと言ってくれた」
そっとお嬢様の隣に腰を下ろします。
正座しているお嬢様と同じ姿勢でお召し物を見つめました。
お嬢様は自分に不似合いだと言っているけれど、目前のワンピースは彼女に相応しい物だと思います。
亜麻色の髪が惹き立つような白生地。
魅力を上げるための花柄。
彼女が着ればさぞ可愛いのでしょう。
「こんな僕は変。かな」
私の反応を待つお嬢様に、
「今日のお嬢様はとても女の子らしいんですね」
やんわりと微笑みを返しました。



