前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



【女中・桧森さと子の報告】
 
 

住み込みで働いている財閥、御堂家は今、とても慌しい限りです。
 
理由は一つ、週末に控えた婚約式の準備に追われているです。
 

婚約というお祝い事にも関わらず、旦那様も奥方様も表情は浮かばれません。

それは当事者同士が家に不在だったり、部屋に引き篭もったり……、と芳しくない状況下にあるからでしょう。

事はお二方が決めたことではなく、大旦那様が決断されたことであり、表向きはお祝い事であるにも関わらずその内容は酷なものです。

私は女中の身の上でありながら、一事情を存じている次第です。
 


「父は何を考えているんだ」



大間で蘭子さんの報告を聞き、苦虫を噛み潰している旦那様。


「向こうの御家族にはどう説明すれば」


奥方様も哀れみを表情に浮かべたまま、吐息ばかりついています。
 

「このようなやり方では誰も幸せになれません。
ましてや、向こうの御家族と縁を切るなど……貴方様、わたくしどもは責任を持って豊福家から子息を預かっているのですよ。肩代わりはあれど、今日(こんにち)まで息子として接してきたというのに。蘭子さん、玲は?」


「大旦那様と面会後、お部屋に入ったきりでございます。お声を掛けても口を開こうとして下さりません。
一体、大旦那様と何を会話したのか……申し訳ございません。私がついておりながら」

 
両手をついて深々と頭を下げる蘭子さんに倣って私も頭を下げました。不甲斐ないと思っているのは蘭子さんだけではないのです。

「あなた方のせいではありませんよ」

お義父様の起こす行動は予測すらできませんから。気を付けていたというのに。


奥方様はまた一つ、深い溜息をついて旦那様に意見を求めました。
 

「二人が心配だな」


とにかく父と話してみる。玲とも後で話そう。

旦那様の導き出した答えは解決策という解決策ではありませんでしたが、それしか方法はないと私は思いました。
 
 

蘭子さんが述べたとおり、玲お嬢様はお部屋に閉じこもったまま誰とも口をきこうとしません。
 

大旦那様と会話したことを誰にも明かしたくないのでしょう。

それとも今の心境を明かしたくない?


私には両方の意味合いで捉えることができました。


話してみると仰っていた旦那様とも口をきこうとしないお嬢様の下に向かったのは、女中としてではなく、一友人としての感情でしょう。

口実に茶菓子を持ってお嬢様のお部屋の前に立った私は中にいる彼女にお声を掛けました。
 

返事が無かったので、失礼ながらも勝手にお部屋へ。

叱られる覚悟で入ったのですが、お嬢様はその素振りすら見せることなく、部屋の真ん中で正座をしていました。


「何を、ご覧になっているのですか?」
 

ただ正座しているわけではなく、お嬢様は壁際に作られたハンガー掛けを眺めておりました。

お召し物を見ているようです。

テーブルに茶菓子を置いて、私もそれをご拝見。

白生地に花の柄が入った清楚なワンピースがそこには掛けられています。


意外でした。
お嬢様のお召し物は男性物が主なので。