前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



かすかに口角を持ち上げて、「俺のうそに付き合ってよ」肩を竦める。
 
意表を突かれた表情を作るイチゴくんに、「あの時皆と帰ったら」博紀さんはもっと俺の弱みを握っていくだろう。

それは家族だったり、友人だったり……、俺の身近な人間を巻き込んで窮地に追い込んでいく。

そう、従順ぶらないと博紀さんの監視を誤魔化せない。

きっと淳蔵さんのこのやり方でのし上がってきたんだろう。恐れられている筈だ。
 

「なら、うそをつくしかない。俺に残された最後の手段だ。うそをついて、ついて、つきまくって隙を突く」

「……空、お前」


「俺は健気な姫になれそうにない。御堂先輩には待つと言ったけど、結局俺も男上際の悪い男。何もしないで待てない生き物なんだ。守れないと知っていても足掻くことをやめたくない。
……いや待つよ。待つけど、動かないとは言っていないし。うん、うそは言ってない。言葉が足りていないだけで、うそは言っていないよ。今回は」


次第次第に零れる自然の笑み。
バックミラーの向こうにいるイチゴくんと視線を合わせて、「皆には悪いことしちゃったけどね」おどけたウィンクをおくる。



「ごめん、イチゴくん。本当は皆のところに帰してあげたかったのに。巻き込む形になって」


 
彼はすべてを察してくれたのだろう。
 
「お前って時々すげぇうそつくよな」

優等生くんのくせに、いい性格しているぜ。

演劇部にでも行った方が良いんじゃないかと揶揄された。
お褒めの悪態に、「考えとくよ」これを乗り越えたらね、と肩を竦める。
 

「俺もごめん、空。助けるつもりだったのに、なんか、逆手に取られちまって」


謝罪してくるイチゴくんにそんなことないと首を横に振る。
 
イチゴくんが俺にしてくれようとした気持ちは嬉しかったし、彼がいなかったらそれこそ俺は鬱になっていたから。

建前じゃなく、本音から従順男に成り下がっていたに違いない。

 
確かに淳蔵さんや博紀さんにぶつけられた言葉は俺にとって心を抉る物ばかりだったけど、俺は“繋がり”に恐れおののくことはできないんだ。
 
誰かと繋がりがあるから、こうして支え支えられる。

繋がりがあるから、誰かの人生に関わり、なんらかの影響を与えてしまう。


俺も御堂先輩も鈴理先輩もイチゴくんも、誰もが当てはまる条理だ。
 

結局は逃げられないんだよな、“繋がり”という鎖に。

誰かの人生を変えてしまうかもしれない恐怖が宿っていたとしても。


「借金の枷は重いんだ。無茶なことを強いられても、俺達豊福家は御堂家に肩代わりしてもらった身分。上辺でも逆らうことはできない」
 
「でもよ。このままじゃお前も御堂も、あのじいさんの言いなりじゃないかよ。人の弱みばっか握って。御堂、マジでやばいぞ」

そのことについては俺の不甲斐なさが祟っている。


「止められなかったんだ」


説得しようとしたけど駄目だった。
彼女は俺を助けるために無茶をするに違いない。俺の王子様はそういう人なんだ。
 
「御堂と、何かあったのか?」
 
落ち込む俺の空気を読んだイチゴくんがチラチラッと車窓の向こうを確認しながら声を窄めてくる。
 
右手で腹部を擦っていた俺は間を置き、有りの儘に当時のことを語る。


彼女から好きだと言われたんだ、と。

 
それは今更じゃね? イチゴくんが苦笑を零した。
 
次いで、「満足できないって?」言葉を先読みされてしまう。

俺の返事を待たず、そりゃそうだろうな。相手はお前にガチだもんな。バックミラーに映っているイチゴくんが苦々しく笑い、足を組んでその上に頬杖をついた。