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「空っ! お前さ。なーんで皆から逃げるんだよ! 折角のチャンスをっ……ああやって突っぱねたら、誰も傷付かない。そんな馬鹿なことを思ったのかよ! 誰かと繋がることがそんなに怖いのか?」
駐車場に戻り、車に乗り込んだ俺に待っていたのはイチゴくんの大説教だった。
助手席に座って黙然とシートベルトを締めていると、頭部にチョップが飛んできた。
しかも連続攻撃。
地味に痛い。
ついでに腹も痛い。
嘔吐、もしくは腹下しそうなレベルだ。
アルコール90度超はマジ鬼畜だよな。
「聞いてるのかよ!」
ギャンギャン喚くイチゴくんに、
「大丈夫。イチゴくんの身は保障するから」
と見当違いの返事をする俺。
もっと相手を怒らせた。
そんなこと言っている場合じゃないだろ! 後ろから首を絞められてしまい、俺はギブギブと声を上げる。
「静かにしろ、花畑くん。空さまにちょっかいを出すな」
「なんだよ。人を殴ったり。脅しの道具に使ったり。挙句、ちょっかい出すな? ふっざけるな!」
唸り声を上げて殺気立つイチゴくんの腕から抜け出し、博紀さんに少し休みたいので寝ると声を掛ける。
「俺の話は無視か!」
あいつに言われたからシカッティングしてくれているわけ?!
ナニ忠実に命令を守っちゃってるんだよ!
耳元で怒鳴るイチゴくんを後部座席に引き摺り戻してくれたのは部下の人。
俺に返事をくれたのは博紀さん。「辛いですか?」問いに、気分が優れないと苦言する。
まだ頭と腹が痛い、顔を顰めると「そうですよね」会長も人が悪いですから、と吐息をついて同情してくれた。
「会長と面会した後は、社交マナーを学んでもらおうと時間を組んでいたのですが。まったく、会長もお茶目なことをしてくれたものです。
今日はキャンセルしましょう。ゆっくりお休みになって下さい。着いたら起こしますので」
「すみません。冗談抜きに辛くて」
座席に沈んで目を閉じる。
シートを倒さなくて大丈夫かとお目付けに気遣われたけど、俺は大丈夫だと返事して意識をシャットダウン。
後部座席でイチゴくんがまだ喚いていたし、文句垂れていたけど反応はできなかった。今は痛みのことで頭が一杯だから。
それからの走行時間は測定不可。
車を走らせているは分かっていたけど、俺の意識が夢路を浮遊していたもんだから、時間の感覚が分からなくなったんだ。
意識が浮上したのは完全に車が停まり、エンジン音が消えてしまった直後。
扉の開閉音により、博紀さんが運転席からいなくなったことを悟る。片目を開けると部下の人も外に出ていた。
スマホを片手に会話していることから、俺達には聞かれたくない仕事の話をしているのだろう。
バックミラーに目を向けると、不貞腐れているイチゴくんが車窓を睨んでいた。
思わず笑いそうになったのは俺の性格が悪いせいかな?
俺が起きていることに気付いたらしく、ミラー越しにイチゴくんがガンを飛ばしてくる。
「このばーか」
中指を立てられた。
随分と機嫌を損ねてしまっているらしい。



