「どうぞ彼女を抱いて下さい。心身愛している、ひとつの形です」
抱く、俺が彼女を。
戸惑いを見せると、「おっと。僕としたことが」お二人の間柄を忘れていました。
わざとらしい咳払いと笑顔を零し、台詞を訂正をする。
「抱かれて下さい。お嬢様を守りたいお心があるなら」
ひとりの女性を変えてしまった貴方には大きな責任があるのです。貴方も男、この意味、分かりますよね?
優しい詰問は絶望している俺に無理やり答えを導き出そうとしてくる。
俺は責任の二文字を心中で咀嚼した。
そうだ、俺には責任がある。大きな責任が。
俺は彼女のなんだ? まがいものでも婚約者だろ。
彼女はいつも俺を支え、傍にいてくれた。
そんな彼女の本音を聞いたんだ。俺に出来ることなんて限られている。
その限られたことをしないでどうするんだよ。
受け男すら名乗れないじゃないか。あの人の姫だろ。王子様を想わないでどうするんだ。俺はあの人の姫だ。―――…姫なんだよ。
「空さま。週末には大切な挙式がございます。あなた方の将来が確定される式が。一晩、都内のホテルの一室を用意することも可能です。どうします?」
御堂先輩、随分と賭けのことを気にしていた。
週末が丁度賭けの決着時。
確か彼女は俺にご褒美をねだっていたよな。
ちょうだいと言っていたし。
第二の俺が早まるな! お前等は学生だ! あの人はアブノーマルセックスを望んでいるぞ! 等々と叱ってくるけど、本体は静かにお目付けを見つめた。
「先輩を守りたい」
そのためならなんでもする、返事をした。
これが俺の答えであり覚悟だ。
「賢明なご判断ですね」
素直に褒めてくれる博紀さんが、きゅっ、とネクタイを締める。
それを合図に体を起し、「あの人を守らなきゃ」そのためには糧になるしかない。今度こそ淳蔵さんの期待に応えられる糧に。
熱に浮かされたようにうわ言を繰り返す。
忍び笑いを零す博紀さんには気付けずにいた。
「ならば、僕は貴方の望むすべてを教えてあげましょう。僕は貴方のお目付け、糧になるよう導くために傍にいるのです」
「ほんとっすか?」本当に教えてくれるのかと恍惚に彼を見つめる。
「ええ」空さまのお気持ち一つですよ。優しい微笑みに安堵感を抱いた。
彼のスーツを両手で握り、守れるならなんでもすると力なく表情を崩す。
頭に手を置き、
「そうは言っても貴方はまだ子供」
少しずつ財閥界の社会を知れば良いのです。
自分の立場さえ忘れなければ良い。
分からないことは側近の自分たちがフォローするのだから。
お目付けが興奮している俺を宥めてくる。
うんっと頷き、俺は心中で言い聞かせる。
俺はうそつき、うそをつくのは大得意な男。
だから彼女を守るためにうそをつく。自分にうそをつく。
そう、これはうそ、うそ、うそ、うそ、うそ、だよ。
うそ、うそ、うそ、のうそ、は本当? それとも偽り?
いえることは一つ。
彼女を守りたい気持ちは本物だということ。
そのためなら幾らだってうそつきになれる。
嗚呼、俺はどうしようもないうそつき。



