前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「豊福に何をしたのですか!」

 
俺から離れ、激昂を露にする御堂先輩。

つかつかと淳蔵さんのデスク前に足を運ぶと机上を叩いた。
何処吹く風で口角を持ち上げる支配者は、「言っただろう?」罰を受けてもらったのだと返事した。毒を盛ったのだとおどける始末。

冗談のつもりだろうけれど感情が昂ぶっている御堂先輩には通用せず、真に受けてしまう。

まさか、じゃあ彼は……、言葉を詰まらせる彼女に助け舟を出してくれたのはイチゴくんだ。

世界で最もアルコール度数の強い酒スピリタスを飲まされたのだと説明してくれる。


「スピリタスだって? あんな危険な酒を飲まされたのか?!」


酒なれしていない人間が飲めば、下手すれば死んでしまうかもしれないのに。
ましてや成長期の未成年者が飲めばどうなるか、想像すらしたくない。

「私に逆らった罰だよ」

淳蔵さんが皮肉った笑みを浮かべた。
 
握り拳を作る御堂先輩は、


「ふざけるな!」


よくも彼に無理強いばかりっ、アンタの悪事は調べが付いているのだと喝破する。

よくもまあ人の弱みに漬け込むような命令ばかりっ、婚約者を返せ! 激昂する王子が目に映った。

ああ、そんな顔をさせたくないのに。

 
口汚い孫に気にすることもなく、「私の孫でもある」簡単に返すわけにはいかないと老人は返事した。
 
彼女の纏う怒気が増したのはこの直後のこと。

 
再度机上を叩いて、「婚約式のことも聞きました!」こんな反吐の出るやり方が許されるわけがない、先輩が相手を睨みつける。
 
何処吹く風で笑みを深める淳蔵さんは頬杖をつき、反吐とは心外だと肩を竦めた。

自分の命じたことはすべて財閥のため、受け継ぐ後世のためなのだと諭してくる。

つまるところ孫に当たるお前のためでもある、なんぞと言うけれど先輩には通じない。


自分の支配下を知らしめたいだけだと二度、三度、机を叩いて握り拳を作った。


「豊福家と縁を切らせることも聞きましたよ! 向こうの御家族に対して非礼もいいところだ!」

「それなりの額は支払うつもりだが?」


金銭の問題じゃないと食い下がる先輩に、「どうせ血縁も薄い」金も手に入る。子を手放すことくらい容易いことだろ? 淳蔵さんが挑発する。
 

それは聞き捨てなら無い台詞だ。
それじゃまるで俺達家族が脆いようじゃないか。


どんなに血縁が薄くても、貧乏でも、本当の家族じゃなくても、俺はあの人達を今日まで本当の両親だと思って接してきた。

すれ違うこともあったけれど、あの人達に愛育してもらったんだ。

簡単に容易いなんて言わないで欲しい。

身分(という借金)さえなければ俺も飛び出して意見したいところだった。……酔っている俺にはちょい無理だろうけど。


「それに、こうなった原因は彼自身にある。彼はあるまじきことに私の命に背いたんだ。当然、それなりの報いは受けてもらわなければ割に合わないだろ?」


豊福くんはただの婚約者ではない。
 
通常であれば、財閥の人間を婚約者として迎え入れるところなんだ。
 
しかし孫思いの私は借金に苦しむ彼の家庭に救済の手を差し伸べてやった。

孫が焦がれ想う相手に手を差し伸べたんだ。お前も想い人と婚約できて嬉々しただろ?


私とて女の後継者よりも男の後継者が欲しいところ。 

庶民出というレッテルはあるものの、皆が皆、至福になれるよう環境を作ったんだ。

感謝してもらいたいのだが? 特に彼には、ね。

だが豊福くんが見せてくれた感謝の意は私の遺憾を湧かせるものだった。ならば私もそれ相応のことをするさ。


「婚約式を終えるまで彼には自宅で謹慎してもらう。新たな自宅、でな。
挙式後は編入試験を受けてもらい、私の指示した学校に通ってもらう。お前が心配するほど不自由な暮らしはさせないつもりだ」

「身は自由でも、心は不自由ではないですか! なにより、何故彼を僕達から奪うんですかっ。父さまや母さまも心配しているのですよ!」

 
「傍に置くと甘やかすだろ?」


彼は財閥の時期後継者になる。

厳しい環境に放っておかなければ財閥界は生き抜いていけない、淳蔵さんはぞんざいに言い放った。


「豊福に受け継がせるつもりなどないくせに」


父さまや僕にだって席は譲らないおつもりでしょう! 詰問する御堂先輩は婚約者を返してくれと何度も主張した。こんな俺のために。