「そ、んな」じゃあ空は……、青褪めるイチゴくんに、「さすがに生(き)では飲ませんよ」死なれたら困るからね、淳蔵さんが笑声を零す。
「スピリタスは微量も微量。他の酒と混ぜている上に、飲ませた量は少ない。急性アルコール中毒にはならないさ。まあ、極端に免疫がなければ死ぬかもしれないが」
「ざ、ざけるなよじいさん!」
「極論を述べただけだよ花畑くん。彼は死にはしない。此方も気は遣っているからね。口腔の水分が飛んでいるから、少しの間、声すら発せられないだろうが」
博紀さんが水の入ったペットボトルを口元に運んできてくれた。
ゆっくり飲むよう指示される。
スピリタスの威力は半端なく、俺は少量ずつしか水を飲むことができなかった。
声を掛けられても返す気力は湧かない。
ただでさえ酒に免疫のない未成年だ。
そこに世界最強の酒を盛られたら、言われなくても撃沈してしまう。胃がものすっごく痛くなってきたし。
良い子のみんなはスピリタスを正しく飲むんだぞ! 間違っても俺のような飲み方はしちゃいけない!
ぐったりと頭を垂らして宙を見つめていると、「君の誠意は認めてあげよう」以後、私には逆らわないよう肝に銘じておきなさい。淳蔵さんが愉快気に命令してきた。
「改めて言うよ。今度こそ君は御堂家の人間として糧になってもらう。君は正式な御堂家の人間になる婚約式まで謹慎処分だ。
いいね? 逃走をはかろうとしたり、此方が許可していない外部の人間と接触するのは禁ずる。
酒による痛みは私の命を聞けなかった罰だと思いなさい。
彼は婚約式が終わるまで此方で身を預かることにしよう。なあに一週間くらいなら言い訳もきくだろ?」
ゆらゆらぐらぐらする頭で理解はできたけれど、返事はできなかった。そんな余裕、これっぽっちも出ない。
「さてと花畑くん。君の持っている通信機器を今此処に出しなさい。携帯を隠し持っていることは知っているんだよ」
でなければ、君の友達がまた毒を盛られるよ。つらい思いをするかもね。
今度は脅しの標的をイチゴくんに定めた。
淳蔵さんはイチゴくんのすべてを見通しているようだ。
幾ら悪知恵を持っていようと、この人の前じゃ通用しない。
それが分かったのか、「チッ」彼は舌打ちを鳴らして隠し持っていた携帯はスラックスの尻ポケットにあると拘束している部下の人に言う。
ぞんざいにポケットから抜き取られ、敷き詰められている絨毯の上に放られる。
これで本当に連絡手段が絶たれてしまった。
「良い子だね」
従順に言うことを聞く人間の姿を見ることに快楽を覚えているのか、淳蔵さんは恍惚に目を細めた。誰も逆らえない支配者の顔だった。



