前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



SUV車は喧騒なオフィス街に入る。

俺自身、この街は初めましてなんだけど、すぐ此処がオフィス街だと分かってしまった。

建ち並ぶビルビルを観察していると、あ、ここは仕事の街なんだって理解してしまうんだ。

目に留まるのは電気屋、証券会社、保険会社に株式会社。銀行も視界に映った。


どのビルもノッポさんで見上げれば首が痛くなりそうだ。

街道ではOLやリーマンが忙しなく行き交いしている。


彼等は、いつもと変わらぬ多忙な日常を過ごしているのだと思うと羨ましく思えた。
 

三十分ほど経った頃、車がだだっ広い駐車場に入った。

屋外にある駐車場は目前のビルが所有しているものだろう。

大層背高ノッポのご立派なビルが所有していることだけあって、駐車場は本当に広い。ついでに停まっている車はどれも高そうだ。

 

はてさて此処は何処だろう?

ここ二日、何度も口にしている疑問を再び口にしてみる。


けど、博紀さんから返信は得られなかった。

彼は急いでいるようで、下車した俺の腕を掴んでさっさと歩き出す。


(今は)に、逃げないのになぁ。

逃げたとしてもここらの土地勘はまるでない。

すぐ捕まるに決まっている。


逃げたくても逃げられないから腕を放してくれていいんだけど、相手に言えば逃走計画がばれてしまうためお口にチャック。


回転式自動扉を潜り、静寂に満ちたロビーを突っ切り、美人お姉さんが立っている案内所を通り過ぎて三台あるエレベータのひとつに乗り込む。


幸いなことにこのエレベータは外界が見えない。

よって安心して乗り込むことができたわけだけど、俺の胸は不安で一杯だ。


まーじ吐きそう。
飲んだオレンジジュースが胃から口まで飛び出しそう。


何も説明されず此処までやって来たけど、大方予想はついている。
 

だからこそ、うん、緊張と不安でおぇっ……吐 き そ う !
   

「俺も来ちゃっていいのか? ニーチャン。だいっじな話し合いがこれからあるんだろ?」

 
エレベータが『5』『6』『7』と数字を刻んでいく中、イチゴくんが面白おかしそうに頭の後ろで腕を組んだ。

「辛気臭い空気ぶち壊す気満々なんだけど」

口角を持ち上げる我等が台風の子に、

「確かに君は空気を壊してくれるよな」

けどこっちも予定を狂わされたくない身の上でね、博紀さんが負けじと口元をつり上げた。


彼に対する苛立ちはどこへやらだ。……なんだか、嫌な予感がしてきた。
 

憂慮を抱く間もなくエレベータが『12』でとまる。

厳かな回廊を歩んでいくと、金ぴかのプレートが貼り付けてある一室前に立たされた。



会長室、か。

嗚呼、来ちゃった。来ちゃったよもう。泣きたいよ。

父さん、母さん、息子は今、あなた方に会いたくてしょうがないデス。
ぶっちゃけ怖いデス、会長様に会うの!


心中で十字を切り、博紀さんのノックを合図に部屋へ。

ひんやりとした空気が頬をなでてきた。

空調が利いているのだろうか?


部屋全体に行き届くよう工夫されている窓には日光が射していた。

逆光により、すぐに部屋全体を把握することができなかったけれど、俺達が来たことによって自動的に窓シャッターが下りた。
 


「待っていたよ」



しゃがれた声に心音が速くなる。



見るからに高そうなデスクに着いて頬杖をついている老人が、食えない笑みを浮かべて綻びを見せた。



―――…淳蔵さんだ。