前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「空さま。行きましょう」


命令されたため、素直に返事する。

その際、俺は自分の机に向かった。

無計画脱出を試みるなら、お守りである写真は持っていかないと。

写真立てから写真を抜き取り、俺は二両親に向かって微笑んだ。お守りは内ポケットに入れておこう。
 

はてさて廊下を出た俺達は早速、脱走を試み…、ることは不可能となる。

何故なら俺は博紀さんに、イチゴくんは部下の人にガッチリと腕を掴まれてしまったから。


半ば引き摺られるような形で歩かされたら、逃げ道なんてこれっぽっちもないよな?


自分で歩けると主張はしたけど、「逃げられたら厄介ですからね」見透かされたように視線を流される。



「現に一度、そのガキにまんまと逃げられていますからね」



ギロッと相手を睨むお目付け。


なんの話やらと口笛を吹いているイチゴくんの肝の太さ、俺にも分けて欲しいんだけど。

大股で歩く博紀さんに引き摺られながら階段を下りる。パッと見、この建物全体は木造のようだ。

判断基準は廊下や階段なんだけど、見事に板張りだ。


二重三重に木の素材で造られているのが見受けられる。


それだけでなく、柱に一々彫刻が施されていた。

凝った造りだ。
素材独特の匂いが鼻腔を擽ってくる。

 
階段を下りてしまうと等間隔に並べられている窓辺が見えた。

視線を投げると、薄いガラス板の向こうで木々が揺れている。

都会の風景がまるでない。
本当に此処は何処なんだろう? まさか山奥じゃ。


不安を胸に抱きつつ、通常扉の二倍はある玄関扉を潜った。俺の不安はSUV車に乗って外界に出たことで解消される。

どうやら此処は敷地が広いだけで、都会の一角にあるらしい。


厳かな庭を抜けて敷地を出ると、見慣れない人間の街並みが顔を出した。
 

博紀さんは用心深い人で、わざわざ俺とイチゴくんの座る席に距離を置かせてきた。


助手席に腰掛けているのはイチゴくん。

悪知恵を働かせて何か騒動を起こさないよう、運転手と後部座席の両方から見張られている。


後部座席に腰を下ろしている俺は右隣を一瞥して心中で溜息。

いつでもどこでも博紀さんが隣にいてくれるんだけど。

もはや息苦しいの一言に尽きる。


肩を落とす此方の心中を察しているのかいないのか、「まだご気分が優れませんか?」と相手に気遣われた(建前だろうけど)。


ええそりゃもう、優れませんの一点張りっすけど?


貴方様が朝からずーっとお傍にいるんだもの。

始終警戒心を募らせておかないといけない。


「俺は優れないんだけどニーチャン。退屈」


大あくびを噛み締めているイチゴくんが自分の気分を報告してきた。
 
「知るか」シッシと手を振って一蹴りする博紀さんはお前に用はないと鼻を鳴らす。

「優しさもクソもない奴!」

ひでぇひでぇと連呼するイチゴくんのおかげで、車内の重々しい空気は一掃された。

彼がいるだけで心強くなるな。
俺一人じゃ鬱も鬱になっていたよ。絶対。


(これからのことを思うと余計に、ね)
 

ふと俺は気付く。

イチゴくんも車に乗せたけど、博紀さんは宣言どおり彼を学校まで送るのだろうか? それとも。