支度ができると、一旦博紀さんは部屋から出て行ってしまった。車の手配でもするのかな?
背を見送ったところで、ようやく俺とイチゴくんは“本当の自分”を出すことに成功する。
「あいつ。ベッタリだったな」
さすがはお目付けだと皮肉るイチゴくんに、「隙もないよね」いい仕事しているよ、と俺も皮肉交じりに絶賛する。
起床からずっと傍にいる博紀さんの目を盗んで、少しでもイチゴくんの携帯に触れたかったんだけどこのザマ。
俺が着替えをしている間にイチゴくんにメールの確認をしてもらおうとしたんだけど、博紀さんの監視してくる眼によって思うように動けなかった。
「ばれているのかな。携帯の件」
俺の疑問に、「かもな」イチゴくんが静かに唸った。
一度は没収された携帯をこそっと取り返しているんだ。
向こうがそれに気付いていない可能性は少ない。
もしかすると隠し場所を探っているのかも。
あれを没収されるとかんなり不味い。
外部と連絡が取れなくなる。
今の内に携帯を回収しておくべきかも。
イチゴくんが洗面所に向かう。その間、俺は見張りを買って出た。博紀さんが来たら足止めをするために。
結局、足止めという仕事をすることなく、イチゴくんがさっさと戻って来た。
早足で俺の下にやって来るイチゴくんは喜べといわんばかりに肩を掴んでくる。
「お前の元カノの連絡先をゲットしたぞ」
アジがメールを寄こしてくれたんだ、と眉尻を下げた。
「竹之内本人からもメールがあってよ。迎えに行く、だってさ」
―――…迎え、に。先輩、まだそんなことを。
「元カノもお前のために動いてくれる人間だろ? 良かったじゃんかよ」
鈴理先輩。
素直に喜べない俺だったけど、
「そいつのためにも全力で助けてもらわないとな」
庇われた方が堪ったもんじゃないから、イチゴくんは明るくおどけた。
力なく笑ってしまう。
それもそうだ。
俺のしたことは人を助けたことと並行して、人を傷付けた。
もう誰も傷付けたくない。
そう思うなら、今度は全力で助けてもらおう。
そのためには俺も助けてもらえるよう全力で足掻くよう努めないと。
「空。此処から逃げようぜ」
と。
イチゴくんが前触れもなしに大脱走をしようと提案してきた。
俺は面食らう。
どうやって脱走をするつもりだろう?
一室には鍵が掛けられている。
解除されるのは博紀さんやその部下が来た時だけだ。
「もうすぐこの部屋を出るだろうからさ」
廊下を出たらその隙に走るんだ、とイチゴくんが人差し指を立てて得意げに笑った。
なるほど、それってつまり計画性のない脱走だよね?
行き当たりばったりな脱走だよね?
めちゃくちゃ危険だと思うんだけど!
「此処が何処なのか分からない以上、安易に脱走するのは無謀だよ。イチゴくん」
「大丈夫。携帯があるから! 外に飛び出したらGPS機能で場所を特定すればいい…、あ゛! それだよ、空! GPS機能で此処が何処だか、居場所を特定すればいいじゃんか! それを御堂達に送れば万々歳! 晴れて自由の身だ!」
なんでそれを思いつかなかったのだろう!
ぱちんと額を叩き、「早速試してみようぜ」イチゴくんが携帯を俺に見せ付けた。
居場所を教えたら、何が何でも此処から脱出だとコードネーム三河屋は笑う。
「御堂のじっちゃんのところに何時までもいたらさ。誰も手出しができないじゃんか? そのためにもこっちはこっちで出来ることをしちゃおうぜ。助けてくれようとしているあいつ等のためにさ」
「イチゴくん……。うん、やろう」
そこまで言った時だった。
鍵の解除音が聞こえ、空気が戦慄する。
大慌てで携帯をポケットに仕舞うイチゴくんと同着で博紀さんが入って来た。
間一髪、彼は携帯の存在を視界に捉えなかったようだ。



