一方、大雅に呼び止められた百合子は不思議な面持ちで彼を見上げていた。
「あー」と唸って掴んでいた手首を放し、ポリポリと頭部を掻いている。
「大雅さん?」
こてんと首を傾げると、詰まるような声を上げてそっぽを向いてしまう。
一体どうしたのだろうか?
やがて掛ける言葉を見出せたのか、ぶっきら棒に口を開いた。
「大丈夫だ。兄貴はお前を置いていかねぇ。消えやしねぇよ」
抽象的ながら、核心を突く言の葉だった。
戸惑う百合子に、「兄貴はお前が好きだ」あれでもでぇーじにしているんだぜ。まじで。安心させる台詞を羅列していく。
見透かされている。
それに気付いた百合子は微かに顔を歪め、昔から自分を支えてくれている“(仮)義弟”に吐露する。
「わたくしは子供ですわ。だから頼りにならないことが多くて。今回の件だって、お声すら…、掛けてもらえなくて」
「そりゃお前を巻き込みたくなかったんだよ」
「でも、わたくしの知らないところで楓さんが消えてしまったら。もう、嫌なのです。誰かが消えてしまうのは。だから取り乱してしまう玲さんの気持ち、とても分かりますの」
「百合子…」眉を八の字に下げる大雅に、「臆病風に吹かれているんですよ」困ったことに、百合子は苦々しく笑った。
「わたくしは今も、引き摺っているんですね。あのことを。だから、こんなにも」
「百合子、大丈夫だ。兄貴は消えねぇし、消させはしねぇ。あの馬鹿が何かやらかしそうになったらサポートしてやっからさ。あんま思い詰めんな」
ぽんっと肩に手を置き、
「兄貴のことは頼んだぞ。さっきも言ったけど、兄貴の気持ちを聞く役回りはお前が適任だ」
柔和に綻び、大雅は任せたと二度肩を叩いて教室に向かうよう背中を押した。
よろめいてしまう百合子が顧みると、「安心しろよ」兄貴は消えねぇから。あの電波が簡単に消えっかよ。大雅がおどけてくる。
自然と微笑を零してしまった。
大雅と話すといつも気が楽になる。小さく頷き、「はい」と返事して教室に入った。
そうだ、大丈夫。
楓は自分の傍に居てくれる。
大きな安堵感に包まれた百合子だった。
「消えるかも、か。兄貴の奴、百合子を不安にすんなよ。頼むから、傍にいてやれっつーんだ」
あいつの泣き顔は見たくねぇんだよ。
大雅は脱力するように宙を見つめ、小さくちいさく呟いた。



