「鈴理さん。玲さんと連絡はついて?」
携帯をブレザーに仕舞っていると真正面から声が飛んできた。
現在、自分の前の席は百合子である。
だからこそ喋りやすいし、声を掛けやすい。
百合子の問いに鈴理は首を横に振った。
「あたしを意識して取らないのだと思う」
困った友人だと頬杖をつく。
気持ちは分かるのだが、現状にはジレンマだ。どうしたらいいやら。
「そうですか」
百合子は軽く目を伏せ、間を置いて玲さんも本気ですからね、と零す。
「好きな方は自分の手で、と御思いなのでしょう。特に今回の件はお爺様のことですから」
「だがあいつひとりでどうにかできる相手ではない。自身にも言えることだが、誰かの手を借りなければ相手にすらしてもらえない。御堂淳蔵はそういう男だ。
……今、真衣姉さんと楓さんが手を貸してくれているが、それでも現状を打破できるかどうか」
すると百合子が微かに反応を見せた。
「楓さんが」名を紡ぐ声には些少の感情が宿っている。
憶測だが、きっと憂慮だろう。
なにせ百合子は楓の許婚。危険な目に遭って欲しくない筈だ。
「すまないな」
許婚を危険な目に遭わせてしまって。
ありきたりではあるが、誠意を込めて謝罪をする。
すぐに目尻を下げる百合子はかぶりを振った。
「楓さんのことですわ。きっと自ら手を貸したいと仰ったのでしょう? あの人は困った人を見ると居ても立ってもいられない性格をしていますから」
その表情の柔らかさに鈴理もつられて頬を崩す。
「昔からそうですの」
楓さんは困った人を見つけてしまうと、なんとしないといけないという気持ちに駆られる人。
それこそわたくしを置いて駆け出してしまう人なんですよ。
そしてすべての事を終えて戻ってくるんです。平謝りしながら。
文句など彼の申し訳無さそうな笑みで霧散してしまうものなのですよね。
わたくしの役目は「お疲れ様」と言って、あたたかく迎えてあげること。
だから今回の一件も心配はしていれど待っているんですよ。彼がやり遂げることを願いながら。
「わたくし自身もお手伝いできることはして差し上げたい。なので鈴理さん、気になさらないで。わたくしも楓さんも大丈夫ですから」
「百合子…、あんたは本当に楓さんのことが好きなんだな」
すると百合子は曖昧に笑みを零した。
意表を突かれてしまう。
まさかそんな表情をされるとは思わなかった。
「好きではないのか?」問い掛けに、「好きですよ」誰よりも、彼女は苦笑した。
いまいち百合子の心意が読み取れず、鈴理は相手を見つめ瞬いた。
瞼を伏せ、長い睫を震わせる百合子は数拍呼吸を置き、口を開く。



