前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



 

こうして俺達は幽閉された一室で現状をつらつらとメールに綴り、協力してくれる友達に一斉送信。


もう一度、御堂先輩と電話をしたいところだけど何時博紀さんがやって来るか分からない。


反対に電話を掛けられたら連絡機が見つかる可能性もある。

だからイチゴくんは携帯の電源を切った。

念には念を入れて洗面所のミラーキャビネットに機具を隠して。


今度こそ何もすることが無くなり、俺達は早い就寝を迎えることにした。



「なあ、空。寝たか?」


「寝れるわけないじゃないか。まだ八時半だよ。九時にもなっていないし。いつもだったら家庭教師の時間だよ」
 
 

とはいえ時刻は午後八時半。

早すぎる就寝だったため、明かりを消した室内で会話を繰り広げる。

俺はベッド、イチゴくんはソファーで横になりながら。
 

こんなにもしてくれたイチゴくんにベッドは譲ろうと思ったんだけど、「休める時に休んどけよ」逆に気遣われたから、渋々寝台に身を置いている。

つくづく俺って幸せ者だよ、こんなにも素敵で無敵で好い友達がいるんだから。


「イチゴくんはさ」「ん?」


天井を見つめていた俺はふと暗闇の向こうにいるであろうイチゴくんの方に視線を流し、「強いね」羨ましいくらいだよ、心境を語った。


「友達のために走ってきてくれたり、車に乗り込んできてくれたり、こうして手を貸してくれたり。その強さが羨ましいや」

「後先考えない性格だってトロからは言われるんだろうけどさ」


はは、それは否定できないな。


「俺は強くないよ空。もしも俺が空の立場なら、きっとビビッて空と同じことをしていると思う。人ってそんなもんだろ? 自分のことになると弱くなる。だから誰かに助けてもらう。自分のことじゃないから走れたんだ。

お前だってそうじゃんかよ。
結局、先輩達の将来とやらを取って馬鹿したじゃん。

同じだって、俺とお前のやってることは。人間の世界ほど単純なものはないよな。繋がりが強ければ強いほど馬鹿みたいに走るってわけだ」
 

「うん、そうだね」


「俺さ空。お前と過ごした幼少のことは何も憶えてないけど、きっと楽しかったんじゃないかと思う。だから再会してすぐに打ち解けたし、こうして馬鹿をし合える。
母ちゃん曰く、お前が前触れもなしに引っ越して俺、大泣きだったらしいぜ? そんなことすら憶えてないけど、話を聞く限り、楽しかったんだろうな。隣人と遊ぶ毎日が」


「…うん」


 
「簡単に諦めるなよ。育ててもらった両親のことも、必死に勉強して入学できた学校も、アジ達のことも、先輩達のことも、俺のことも。ビビッていいさ。自分のことになると誰だってビビッちまう。
けど心配すんな。ビビッても誰かがお前の背中、絶対に蹴り飛ばしてくれるから。今回は俺が美味しいところを取ったな」

 
「―――…うん」

 

ありがとうと言いたい気持ちは嚥下した。
 
今、言ったところでどうせ「全部終わってからにしろ」としか受け取ってもらえないから。


「やだやだハズイ」


今の俺って世界でいっちゃん恥ずかしい奴だとイチゴくんが自身に悪態をついている。仕舞いにはもう寝ると一声。その声音が照れていた。


泣き笑いを零し、俺も瞼を下ろす。

一度は諦めようとした現実と闘う気持ちが立ち直りかけている。


大丈夫、俺はまだやれる。
イチゴくんの一蹴りのおかげで、まだやれる。やれるんだ。