「今夜はオールだ空! やっべぇテンション上がってきた。夕飯食ったらなにする? あ、ニーチャン。テレビはないの? 娯楽なさ過ぎてこの部屋、超萎えるんだけど」
「なっ、君は帰らないつもりか!」
博紀さんはイチゴくんに夕飯を与え、半強制的に家へ送還する計画だったらしい。
だがしかしイチゴくんはことごとく彼の計画をへし折る。
「当然じゃん」
なんのためのパジャマだよ、細く笑う男子高校生は相手の驚愕に鼻を鳴らして俺は此処に泊まるのだ! と大宣言した。
勝手過ぎると博紀さんが唸るけど、イチゴくんが勝手なんかじゃないと胸を張る。
寧ろ勝手なのは自分達を此処まで連れ去ったお前らじゃないか、なんぞと責を擦り付ける始末。
いつのまにか博紀さんがイチゴくんを連れ去ったことになっている。
つまるところ博紀さんは誘拐犯にでっち上げられている。
半分当たってるっちゃ当たってるけどさ。
ことごとく計画を狂わせられたことに苛立ち、禍々しい怒気を放ち始める博紀さん。
満面の笑顔を向けるイチゴくんは、空いている手で親指を立て、ぱちんとウィンクした。
「いくら俺の体が美しいからって、俺の寝込みは襲うなよ。ニーチャン」
ブッチン。
博紀さんの、堪忍袋の緒が、切れたような音が、聞こえた。
「このクソガキ」
こめかみに青筋を立てる博紀さんがイチゴくんに掴みかかろうとする。彼の素は短気とみた。
慌てて仲裁に入ろうとするんだけど、その前にイチゴくんがソファーから飛び退いて彼の手から逃げた。
うぇっと舌を出すイチゴくんはガンを飛ばす博紀さんに俺は此処に泊まってやるんだからな! と再三再四宣言。
これはもう決定事項だ! なーんて身勝手極まりない台詞が彼の口から放たれる。
「許すか!」
お前の子守りはもうウンザリだと舌を鳴らす博紀さんはつまみ出すと宣戦布告。なりふり構わずイチゴくんを追い駆け始めた。
「捕まるかよ!」
俺はアンタよりも若いんだぜ? 捕まりませーん! 余裕綽々でイチゴくんは博紀さんから逃げる。
俺はといえば、ソファーの周りをぐるぐる走り回る彼らを見守ることしか出来ない。
下手に仲裁に入ろうとすると余計話をこじらせそうだ。
「お前みたいな躾のなっていないクソガキは初めてだね! 腹が立つ!」
「俺も初めてだね! 体を狙う変態ニーチャンに追い駆けられるなんて!」
「まだ言うかガキ!」「なーんどでも言いまーす!」「ざけんな!」「激真面目どぇす!」「帰れ!」「ぜってぇ泊まる!」「クソガキめ!」「クソガキではない。俺の名前は花畑翼なのだ!」「死ね!」「アンタよりは生きるのら!」
……、さてどうしよう。収拾がつかない状態になっている。
博紀さんってオトナっぽいけどまだ齢21だもんな。
ムキになるところはなるんだろう。
すっかりイチゴくんのペースに乗せられちゃって。



