「―――…いいですか空さま。行動を起こす際はまずお目付けの僕に一報を寄こすようお願い申し上げます。
内線のことは話していませんでしたかね?
ご勝手なことばかりするのはお目付けとしても非常に困るのです。貴方様は身分上、とてもご多忙の方なのですから。
貴方様にはスケジュールというものがございまして」
長い長い入浴を終えた俺に待っていたのは何かを吹き込まれる、ではなく、半ば八つ当たりに近い博紀さんの説教でした。
まさか風呂に入るだけで説教を食らう羽目になるとは思いもせず、俺は内心で面を食らいながら、ソファーの上で博紀さんのお小言に身を小さくしていた。
何か言われる度にごめんなさい。すみません。面目ないですばかり口にする。
いやそれしか口に出来ない。
それだけ博紀さんは憤っていた。
今のところは優しい表情だけれど、お小言には茨が纏っている。
彼が怒っている理由の三分の二以上は予定外の出来事に対してだと思うし、それは俺のせいではないのだけれど、どうやらストレスの捌け口にされているらしい。
博紀さんのお小言がやめられないとまらない、かっぱえび…、ごほん。なんでもないです。
濡れたスーツもそのままに、上着だけ脱いで俺に説教垂れる博紀さん。
視線が俺の隣で欠伸をしているイチゴくんに流れると、こめかみに青筋が一つ浮かび上がった。
嗚呼、不味い。
「空さま。学校の教育で友人を作るための条件を学ばなかったのですか?
友人は自分に利のある者を選ぶべきであり、害のある者を選ぶのは賢い選択とは言えません。貴方様自身の沽券にも関わってくるのですよ」
「ちょ、それって俺が害だって言いたいの? ニーチャン。酷くね?!
俺は空のためになりふり構わず車に乗り込んだ、謂わばスーパーマンだぜ? 俺って友達の鑑(かがみ)だよなぁ。
少なくとも俺はニーチャンみたいなボーリョク男が害だと思うんだけど?」
「最近の子供は目上に対する口の利き方がなってないようだね。君が車に乗り込まなかったら、今日のスケジュールは狂わずに済んだ。
空さまもおとなしく此方の指示に従ってくれただろう。君さえいなければ、ね」
「あっはー! 最近のアダルトさんってやけに上から目線なんですね!
俺アンタみたいなオトナにだけはぜーったいなりたくないって今この瞬間に思いましたよ。
空、良かったな。俺みたいな友達がいて。スケジュールの言いなりになるところだったんだから!」
「このクソガキめ」
「やっだ褒めないで下さいよ。オッチャン」
バチッ、双方に青い火花が散った。
マイペース男と二重人格男の相性は最悪のようだ。
イチゴくんは相手の言葉を受け流して自分の意見を物申しているだけのようだけど(つまり気にしちゃない)、博紀さんは相手の言葉を受け止めて一々腹を立てているらしい。
つりあがった片眉が怒を表すかのように微動している。
挟まれている俺はといえば、各々に目を配って狼狽することしかできない。
え、情けない? 分かってらぁ! 超情けねぇよ!
でも誰だって俺の立場に立たされたら、こんな態度を取るよ! 断言できる!
「ったく、一回一回ニーチャンに報告とか。んじゃ便所一つで内線か? おトイレ行くんで宜しくとか内線電話で言うわけ? あほくさ」
「そこまで強制するつもりはない。けどね、空さまは君と違ってご多忙なんだ。勿論僕もね。あまり彼を引っ張りまわさないでもらいたい。不法侵入してきた身分のくせに」
「あんたにどう思われようが空はメーワクだって思ってねぇもん。だから反省ナッシング! それよか夕飯は? 準備してくれてるんだろ?」
今の博紀さんなら目からビームも出るだろう。殺意ある眼は禍々しい。
「君は何から何まで小癪だね」
第一その格好はなんだい? 彼が唸り声を上げる。
「パジャマだけど?」
クローゼットに入っていたから借りたのだとイチゴくんは無地の真っ白なパジャマを指差して笑い、お揃いだと俺の首に腕を回してきた。



