「空食らえ! ハイドロポンプ!」
「へっ? うわっち?!」
突拍子もなくイチゴくんが飛び上がり、大袈裟に潜って俺に水を浴びせてきた。
悲鳴を上げると同時に折戸が開かれる。
結果俺はびしゃびしゃ、戸を開けた博紀さんもびしゃびしゃ、勿論潜ったイチゴくんもびしゃびしゃ。
三人仲良くずぶ濡れになった。
浮上したイチゴくんはケタケタと笑ってどうだ、参ったか! と指差してくるけど、参ったどころじゃない。俺も博紀さんも意表を突かれたよ。
高そうなスーツを濡らしている博紀さんは、前髪に滴っている水滴を拭うこともせず、口元を引き攣らせてこっちを見据えてきた。
「空さま、何をしてらっしゃるのですか?」
うわああ目が完全に据わってるよ。
必死に笑顔で接してくるけど、怒ってる、この人、怒ってる!
しかも俺に怒ってる!
これは俺のせいじゃないのに!
俺が答える前に、「ナニって見て分かんねーの?」入浴してるんだよ、イチゴくんがしれっと答えて浴槽の縁に凭れ掛かる。
「此処の風呂でっけぇから俺、入ってみたくなっちまって。空に頼んで入れてもらったんだ。こんだけ広いとプチ銭湯ができるじゃんか」
「だからお二人で入浴していると? しかも今?」
疑(うたぐ)った眼が飛んでくるがなんのその。
マイペース男には効かない。
「すっぽんぽんの付き合いこそ友情を深めるし、入浴に時間なんてないんだよ。入りたい時に入る。それが生粋の風呂好きってもんだ」
それに風呂にはエピソードがあってさ。
俺と空はそれこそ昔からの付き合い、それこそ隣人同士だったんだけど、俺達は喧嘩する度、仲直りは風呂でしていたんだ。
裸の付き合いゆえってやつかな。
空なんてキラーイ! 翼くんなんてシラナーイ、とか喧嘩しても不思議と一緒に風呂に入ると仲直り。
円満に事が解決したんだ。
子供ながらに悟ったね。風呂は和解の場としてうってつけだと!
「以来、俺達は風呂場で親睦を深めようってなってるわけ。な? 空」
「あ、そうだね。そんな思い出もあったね」
勿論そんな思い出一抹もあーりませんけど。
完全に過去を捏造していますです、はい。
「ニーチャンも入る? 泡風呂サイコーだし。あ、でもニーチャン、俺の体に興味あったんだっけ。じゃあごめん、一緒に入れないや。俺も自分が可愛いから」
ピキッ、博紀さんのこめかみに青筋が一つ浮き立つ。
へらへらっと笑っているイチゴくんを睨んだ後、深い溜息をついてはやく上がってくるよう俺に命令した。
お茶菓子は用意せず、夕飯の準備をしてくれているらしい。
はやく上がって食すよう命じられたため、俺は返事してイチゴくんに上がろうと声を掛けた。
「うーん。風呂から出たいけど」
ニーチャンがそこにいたら俺の穢れなき体が、とマイペース男。
刹那、音を立てて折戸を閉められた。
「ジョーダンなのに」
あいつ短気なんじゃね? イチゴくんが親指で出入り口を指差す。
次いで沈んだ携帯を手探りで掴むと、通話状態にも拘らず電源を切って水気を飛ばした。仕方がないことだ。
博紀さんが戻ってきたのだから。
御堂先輩ともっと話したかったけれど、この現状じゃ。
「空。何が遭っても御堂達を信じろよ。あのニーチャン、お前に吹き込む可能性大だから」
覚悟しとけとイチゴくんに真顔で言われ、俺は静かに頷いた。



