「御堂のじいちゃんがどんだけ力を持っているか分かんねぇけど、これは御堂家と豊福家両方の問題だろ? 戻るべきだ。御堂の下に」
「俺が戻って、大丈夫なのかな。さっきも言ったけど俺のバックには親がいるんだ。博紀さんにも両親の下には戻さないって宣告されているし。下手に行動したら」
両親に危険が及ぶかもしれない。俺は顔を顰めた。
「既に御堂は事を知っているんだろ? ならお前は御堂を信じろ。
空が行動を起こしたように、あいつも行動を起こしているんじゃないか? USB事件のことだって二財閥が動かないわけがない。
お前が思っている以上に周囲も行動を起こしているんだって俺は思うよ。俺が車に乗り込んだみたいにさ」
ニカッと歯茎を見せて笑ってくるイチゴくんに、安堵の笑みを返した。
誰か一人でも傍にいてくれると心強いもんだ。俺一人だったら不安のあまり発狂していそう。
さっきだってイチゴくんに再会するまで、独りで悶々と不安と孤独に耐えていたから。
「イチゴくんは時間大丈夫?」
とっくに夕刻を過ぎている。
花畑さんが心配していないといいけど。
「バッカ」俺の心配とか二の次三の次だろ、イチゴくんは阿呆かと毒づいてきた。
「母ちゃんへの言い訳とか幾らでも考えられるから安心しろって。泊まりの一言でもメールしておけばどうにかなるし。
まずは空、自分のことだぞ。
あ、そろそろ携帯を使っても良さげかな」
「携帯?」目を見開く俺に、「浴室に持ってきたんだ」ざぶんと大きな波を立たせ、イチゴくんが浴槽から出る。
彼は洗面器の中に突っ込んでいる四つ折りのタオルを手に取り、中を開いて携帯に目を落とした。
防水加工はしてあるから浴槽に突っ込んでも大丈夫だろう。
あっけらかんした面持ちでのまたり、浴槽に戻ってくる。
鈍感な俺はようやく此処でイチゴくんの意図を読むことができた。
イチゴくんが風呂場を選んだのは、カメラとは別に携帯を隠しやすいよう環境を作るためだ。
いざとなったら湯船に携帯を沈めるつもりなんだろう。
そのための泡風呂なのか。
合致した。
だけど泡風呂に携帯を突っ込んでも大丈夫なのだろうか? 壊れないといいけど。
俺の心配を余所にイチゴくんは携帯を操作し始めた。
「湯気で見えにくいな」
舌を鳴らしながら、かちかちとボタンを押している。
「それにしてもイチゴくん、よく携帯没収されなかったね。俺は気を失っている間に、博紀さんに没収されていたみたいなんだけど」
「俺も一度は没収されたよ。どーやら外部の人間に連絡を取られたくないみたいなんだ、あいつ等。ま、便所に閉じ込める時、奪い返したんだけどさ」
あはは、ほんとイチゴくんって行動力あるよな。肝が据わっているというか、無謀というか、後先考えないというか。
「メールが七通も来ている」
イチゴくんがざっとメールを流し読み。
内、四通はトロくんらしい。
曰く、車に乗り込む寸前まで一緒だったとか。
すっかり放置プレイしていたな、イチゴくんが独り言を漏らす。
よってトロくんに同情してしまう。
今頃イチゴくんのこと、心配しているだろうな。
残り三通は意外も意外、さと子ちゃんからだったらしい。
彼女はトロくんと一緒らしい。
御堂先輩が必死で俺の事を探していることも綴られているらしく、俺は耳が痛くなってしまった。
想像が容易についてしまう。