瞬きを忘れ、困惑気味にイチゴくんを見つめる。


イマイチ彼の伝えようとしていることが分からない。


イチゴくんは何を俺に伝えたいのだろう?
その柔らかな眼差しに宿した心情が受信できない。


途方に暮れているとイチゴくんが痛いデコピンを食らわせてくる。


イテッ、声を上げ何するのだと相手を睨む。

「そうそうそれだよ」

切りそろえられた人差し指の爪を俺の額に押し当ててお前にはその口があるじゃん、小さく目尻を下げる。

 
「仮にお前が助けてっつってきたら、しょーがなくても走ってきてやる。言葉一つで何処までも走れるんだ。分かるか? この意味」
 
「いち、ごくん」
 

「お前の判断が正しいなら、俺は間違った判断を選択して暴れてやるから安心しろって。答えがすべて正しいで解決できると思うなよ、バカヤロウ。
世の中、判定が覆るってこともあるんだからな。
 
空、言えよ。お前の気持ち、俺に言ってみろよ」
 
 
―――…胸の内に溜めていた孤独感と不安感と恐怖心が一気に爆ぜた。なんだこれ、すごく怖いんだけど。


喉元を掻き毟りたくなるような感情に息を詰める。

思えば淳蔵さんがヘタレ受け男に浮気男になれだの、ミッション:インポッシブルをしろだの無理難題を押し付けてきたことから始まった。


俺にできると思うか?
馬鹿、できるわけないでしょうよ。

御堂先輩は俺にとって守りたい人。
鈴理先輩や大雅先輩は俺にとって大切な人。


仲良くしてくれた人達を不幸のどん底に突き落とすことなんてできるわけないんだ。
 

命じられたその瞬間から、俺、誰かに全部をぶちまけて縋りたかった。

本当は逃げ出したくてしょうがなかったんだ。


どんだけ俺を酷い男にしたいんだよ。


嗚呼、もし、


「こわ……い。誰かの未来を奪う、ことが」


今此処で吐露することが許されるなら、


「自分がこれからどうなるかが……こわいっ」


許してくれるなら。



「俺もう、どうすればいいか分からない。どうしていいのかも分からない……、いちごくん、たすけて」

  
  
緩みそうになる涙腺をしっかり引き締め、昂ぶった感情を抑えるように呼吸を繰り返し、今の気持ちを相手にぶつける。


「ほら俺に届いたじゃんか」


遅いんだよ阿呆。
なんでもっと早く言わなかったんだよ。


悪態をつきまくってくるイチゴくんが俺の額にチョップを入れてくる。


これまた痛烈なチョップだ。
その衝撃のせいで涙腺が緩み、一粒二粒三粒雫が零れた。


急いでそれをカッターシャツの袖口で拭う。

これ以上、情けない面にはなりたくない。