前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「おかげで鈴理先輩と肉体関係を持つことも、データを盗むことも、二財閥を不幸にすることも俺にはできなかった。怖かったんだ。多くの人に怨まれることが」

「かと言って……、お前が選んだ道も最悪じゃんか。お前がアブネェじゃん」
 

「俺だけじゃない。俺の両親も危ないんだ。正直、真剣に現実と向き合うと気が狂いそう。俺達家族がこれからどうなっていくのか、不安でしょうがないんだ」
 

針山地獄か灼熱地獄か、悩みに悩んだ末、俺は灼熱地獄を選んだ。

末路がこれだ。
俺は今、見知らぬ部屋に拘束され、両親とはコンタクトを取れない状況下にある。


刑を言い渡される前の囚人にでもなっている気分だ。

淳蔵さんがどんなことを言い渡すか、怖くてしょうがない。

仕方がない未来だったとしても怖くてしょうがないんだ。
 

それでも俺は約束したんだ。
御堂先輩を守るって。

たとえ彼女を傷付けてしまっても、幸福な道に誘(いざな)うことができるなら俺はそっちの道に背中を押したい。


だって彼女は俺が一番辛い時に傍にいてくれた人だから。

鈴理先輩と破局した一件からずっと、ずっと、傍にいてくれた人だから。


「お前。馬鹿だろ」


それまで静聴していたイチゴくんが重い口を開き、勢いよく俺の両肩を掴んでくる。


「御堂がそれで喜ぶと思ってるのか? だとしたらお前は大バカヤロウだぞ」


言っただろ、空。

人を助ける自己犠牲もあるなら、泣かせる自己犠牲もある。

所詮、自己犠牲は自分のエゴなんだって、俺、お前にそう言ったじゃんかよ。


なんで無茶な命令をされた時、御堂に言わなかったんだよ。

口止めされていたのか?


「そうだとしても二択の内、どっちかを選ぶ必要はなかったんじゃねえの? 新しい選択肢を作ることだってできただろ? なあ!」
 

捲くし立ててくるイチゴくんの強い眼差しに、俺は初めて顔を歪めた。


「何も知らないくせに」

簡単なことを言わないでくれよ。


掴んでくる手を振り払って相手の胸倉を掴む。

「空…」困惑するイチゴくんに、「どうしようもなかったんだ」どれだけ俺が悩んだと思っているんだよ、涙声を振り絞り項垂れる。体が小刻みに震えた。


「常に誰かに見張られていた。だから下手な真似はできなかった。
自己犠牲? 違う……、俺は怖かっただけなんだ。
また誰かを不幸にする将来が、誰かの未来を変える現実が凄くこわかった。俺は俺が可愛くてこの未来を選んだんだ」

「……空」


「御堂先輩が喜ぶなんて思っていない。きっと悲しむこともわかってるんだ。
だけど、俺なりの正しい未来を考えた結果なんだ。これが俺に出来る精一杯だったんだよ」


一件のおかげ様で借金さえなかったら、そう僻みそうになった時があった。

借金を押し付けた親族に唾を吐きかけたくもなった。

婚約の話なんてなかったら、卑屈に思う時だってあった。


でもそんなこと思ったら俺や俺の家族を大切にしてくれた御堂先輩の想いを踏み躙る。



借金という媒体があっての婚約だったけど、俺の彼女に対する守りたい気持ち、彼女の俺に対する好きな気持ちは本物だったんだ。

彼女の気持ちは誰よりも知っていた。


だから心苦しかった。
自分の出した未来が。
 

……それでも正しい未来を考えた。

どれが正しい未来なのか、一生分の脳みそを使って考えた未来がこれなんだ。信じたいんだ、自分の判断を。