「空、お前さ。なんのために俺がこんな無茶したか分かってんのかぁ?」
「気持ちは受け取ってるよ。感謝もしている。だけど、俺は……、その御堂先輩と別居を言い渡されて」
咄嗟に思いついた嘘っぱちは我ながらナイスだと思った。
婚約者との別居、うん、ありえそう。
ただイチゴくんはゼンッゼン真に受けてくれなかった。
俺を拳で殴ってくる。
数秒も経たない内に嘘だとばれてしまったらしい。
俺って嘘ベタなのかな。
御堂先輩や鈴理先輩は騙せたのに。
「それで?」イチゴくんが接続詞を述べてくるけど、前述の文脈とかみ合っていないから俺にはイマイチ意味が通じていない。
つい、「なにが?」と返してしまう。
「お前なぁ。この期に及んでそうくるか? だったら懇切丁寧に聞いてやる。なんで俺を見送ろうとしていたんですか? 空を捜し回っていたこの俺を。
見たところ? お前はどーもこの部屋から出られないみたいだな。
あのニーチャン、しっかり部屋に鍵まで掛けてさ。窓は格子付き。此処は監獄か?」
その表現は間違ってはいないだろう。
俺はソファーに凭れ、この部屋は自分の部屋だとイチゴくんに告げる。
また嘘っぱちを、訝しげな眼を向けられた。
これは嘘じゃないから素で笑う。
「俺の部屋だよ」繰り返して一室を見渡す。見慣れない窓、寝具、机、今日から此処が俺が生活していくスペースだ。
「此処がぁ?」冗談抜かせ、テレビもなんもねぇじゃんかよ! 頓狂な声を上げるイチゴくんはこんなところで生活してたらノイローゼになりそうだと顔を顰める。
「第一お前、御堂の家に居候していたんじゃねえの? なんで別居状態になっているんだ?」
「うーん。花婿修行かな」
「はい嘘ぴょんですね? いい加減にしてくださいー。俺も怒りますよー?」
どうしてばれるんだろう?
イチゴくん、エスパーの持ち主?
力なく笑い、眼光を鋭くする彼から視線を外した。
「お前がそうならこっちにだって考えがある。お前等が本当に別居状態かどうか」
桧森に電話して御堂に確認を取るぜ?
イチゴくんが素っ気無く鼻を鳴らしてブレザーのポケットに手を突っ込む。
どきりと鼓動が高鳴った。
慌てて隣に視線を戻す。
意地の悪い笑みが視界に入り、発破を掛けられたのだと気付かされる。
決まり悪く酷いやと文句垂れてはみるけど、相手には無効化。まったく相手にしてくれなかった。
逃げ道という口実を次々に塞がれた俺は、とうとう観念して自分の状況を白状することにする。
心の片隅で誰かに真情を聞いてもらいと思ったのかもしれない。
イチゴくんのかくかくしかじかに倣い、俺はこれこれしかじかで説明。
これまで自分が起こした行動をイチゴくんに教える。
最初こそ胡散臭げ、興味なさげに聞いていたイチゴくんだったけれど、末尾には信じられないような眼を向けて凝視してきた。
「逆らったって」
それ、無茶過ぎる命令じゃんかよ。
彼の言葉に、そうだね、と俺は苦笑いを零す。



