「君っ、空さまを何処に連れて行くつもりだい? ……そして僕に謝罪はないのかい?」
あ、博紀さんが復活した。
赤くなっている額を擦り、おどろおどろしい黒いオーラを醸し出すお目付けにイチゴくんが「アーッ!」と声を上げて指差す。
「アンタ、この部屋にいたのか! じゃ、丁度いい。俺と空を家まで送れ、この変態誘拐犯!」
「え゛、い、イチゴくんっ」
「だってそうじゃないか。イタイケな少年を甚振った上に気絶させ、ついには監禁だぜ?! 変態誘拐犯とはこいつのためにあるような名前だ。
俺、こいつに見つかって部屋で尋問させられたんだぞ? しかも制服を脱げとかっ、キャー! 翼、もうお婿にいけない!」
わぁああっ、俺、実はあーんなことやこーんなことをされたんだ。
両手で顔を隠すイチゴくんは「もう受け男になるしかないのね」女口調で嘆いて見せた。
ちょ、アータの前に本物の受け男がいるんだけどっ! 俺はどう反応しろと?!
「誤解も甚だしい! 僕達は君が不審者だと判断し危険物を持っていないかどうか確かめようとしただけだ!
なのに君は散々喚き暴れ挙句、人を変態だと罵って」
こめかみに青筋を立てる博紀さんのご苦労が目に浮かぶ。
イチゴくんは文字通り、大暴れしたのだろう。
あの博紀さんを疲労困ぱいに追い込むほど、キャツは騒ぎま逃げまくったに違いない。
「嘘よ、最初から俺の体が目的だったんでしょ!」
素直に白状したらどうなのよ!
酷い男だと嘆き、自分の身を抱き締めるイチゴくんの熱意(と悪意)ある演技にもはや空笑いしか出ない。
これは博紀さんも疲れ果てる筈だ。イチゴくん最強。
「大体君は客間にいさせた筈だ。部下も見張っていただろ?」
「え、ああ、部下さんなら今頃トイレ」
「はあ? あの馬鹿、何をして」
「いや俺がトイレに閉じ込めたから」
愕然。
一端の高校生がだいの大人をトイレに閉じ込めたというのである。
呆気に取られる俺達に彼はこう説明してくれる。どうしても友達を捜したく、イチゴくんはトイレに行きたいと主張した。
部下さんはイチゴくんを見張るために扉前までついて来たらしい。
そこでイチゴくん。
悪知恵を働かせ、わざと自分のズボンにトイレットペーパーの端を挟ませて用を足したように見せるとトイレを出る。
当然、部下さんはコメディチックな光景に瞠目。
ついでそのことを指摘した。
イチゴくんはうっかりしたと笑いながらトイレットペーパーを戻そうとトイレに踵返す。
次の瞬間、猛ダッシュして扉の傍にいた部下さんの後ろに回って背中をどーん。
近場にあった椅子の背をドアノブに突っかけ、無事に部下さんを閉じ込めることに成功したとか。
これぞ間抜けトイレットペーパー不意打ち作戦らしい。
「まだあの人、閉じ込められていると思うんで救出してあげて下さい」
へらへらっと笑うイチゴくんの底知れぬ行動っぷりには舌を巻く。もはや感服の域だ。
「こんな子供にやられるなんて」
博紀さんがしかめっ面を作った。
こればっかしは俺も同情するしかない。ご愁傷さまっす。



