「俺の失態は言い逃れができません」
どうぞこの場で裁いて欲しい。
博紀さんに告げると、意外な反応が返ってきた。彼なら鼻を鳴らして笑うと思ったんだ。
けれど彼は「そうしたいのは山々です」しかし今はそれ以上に問題ができたので、と意味深に溜息をついた。
それはきっと彼が疲労していたことと関係があるのだろう。
ぱちぱちと瞬きをしてお目付けを見つめていると、廊下からけたたましい足音が聞こえた。
次いで近場の扉が開いたのか開閉音が聞こえ、「そーら!」俺を呼ぶ声。また足音、開閉音、「そーら!」声。
……あれあれ? 聞き覚えがあるぞ。この声。
博紀さんの表情が変わった。
「まさか」
彼が逃げ出したのかっ。
引き攣り顔を作る博紀さんが急いで扉に向かう。
内側から鍵を掛けようと思ったらしく、スーツのポケットから鍵を取り出す。
が、一歩遅かった。
鍵穴に鍵を差し込む前に勢い良く扉が開かれ、博紀さん、顔面強打。
その場にしゃがみ込むお目付けに噴き出して笑いそうになった俺の性格の悪さは説明するまでもないだろう。
「あんれ?」
何か物にでも当たったか?
首を傾げる犯人はドアノブを持ったまま部屋を覗き込む。
その犯人に俺は絶句、一方の犯人は「いたー!」人を指差してもろ手を上げた。
「ちわーっす三河屋でーす! 商品はナッシングでーす! 空やっと見つけた!」
捜すのに苦労したぜコンチクショウと笑顔でブンブン手を振ってくるキャツのネームは花畑翼。コードネームは三河屋。ニックネームはイチゴである。
予想だにしなかった人物の登場にソファーから飛び退いて、「イチゴくん?!」なんで此処にいるの?! と頓狂な声を上げた。
チッチッチ、聞いて驚けと右人差し指を振りながら俺に歩んでくるイチゴくんはかくかくしかじかで此処にいるのだと説明。
説明省略かくかくしかじか口述により、俺はイチゴくんがなんで此処にいるのか把握。
もっと驚きの声を上げてしまった。
「お、俺が誘拐されると思って車に乗り込んだ?!」
「おうよ。空って前に誘拐されたことあったろ? 超胡散臭いニーチャンとお前のやり取りを公園で見かけてさ。
ちょっとやばいんじゃないかって車に乗り込んだんだ。
けど見つかっちまった。
ははっ、失敗失敗。最初はお前を助手席から掻っ攫おうとしたんだぜ? でも無理だった」
イチゴくんはいつからスーパーマンを名乗るようになったんだい。
「な、な、なんて無茶で無謀なことをするの! も、もし本当に俺が誘拐されていたらイチゴくんの身も危機に晒されるんだよ!」
「過ぎたことをどうこう言ったってしょうがないだろ? 大切なのは今、そして未来なんだ。
人間の目はなんで前についていると思う? それは勿論前を見るためなんだぜ! ……ってことで過去のことはもう忘れた」
あっはーとおどけるイチゴくんの強引ゴーイングマイウェイな性格に俺は眩暈を覚えた。
前から自分のしたいことをわが道まっしぐら精神で突き進む男だとは知っていたけど、まさか此処までとは。舐めていた、イチゴくんのこと。
頬を痙攣させて引き攣り笑いを浮かべる俺とは対照的に、「目的も達成したし」んじゃ、お邪魔しました。
片手を挙げたイチゴくんがくるんと踵返す。
軽快な足取りで半開きになっている扉のドアノブに手を掛けた。



